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「ケーブルを変える前に知りたい50のオーディオテクニック」(大藤 武 著)読了

著者は、NECで半導体の研究開発に携わり、AT&Tベル研究所にも駐在、大阪大学から博士号も取得している。インテルへの転職を経て脱サラ。子供の頃から好きだったオーディオで事業を立ち上げたという筋金入りの《理科系》。

本書は、著者が主宰するオーディオデザイン社のHPに連載されていたブログからとりまとめて一冊の本にしたもの。

標題からオーディオケーブルの購入の参考書と勘違いする人もいるようですが、私には高価なケーブルを取っ替え引っ替えするよりもずっと大事なことがいっぱいあるよという風にしか読めません。これをケーブル指南書と読んでしまうのはよほどの「電線病」患者なのでしょう(笑)。

理系というと、とかくデータ重視、測定偏重、理論偏向というイメージがありますが、著者はむしろそういう一見論理的に見えるような話しに警鐘を鳴らしています。そういうことがむしろ誤った思い込み、間違った常識を生み、あるいは、メーカーなどの商業主義を助長していると警告しているのです。

「ハイレソの音は本当にいいの?」

ダイナミックレンジとノイズ(SN比)の観点から、実はハイレゾは再生できていないと説いています。アナログ変換されたアナログ信号のノイズレベルの観点からすれば16bitあれば十分で、それが実体験に近いというのです。ハイレゾがよい音に聞こえるのは、不要な高周波ノイズが多くなるせいで、音のキレが良く聴こたり解像度が上がったように聴こえるだけだと。

「見かけによらず38cmウーハーが一番鳴らしやすい」

大型スピーカーを駆動するには相当な駆動力のアンプが必要だという常識は間違いだと指摘しています。小型スピーカーほど駆動力を必要とする。それは小型スピーカーほど能率が低く、インピーダンスも6~4Ωと低くなり、それだけ大電流出力を必要としてアンプには厳しいからです。数十年前と違って現代の高級小型スピーカーは振動板のストロークも大きく大入力でも歪まない高性能スピーカーなのです。むしろ能力が問われるのはアンプのほうだと言うわけです。逆に、大型スピーカーに大出力アンプを取り合わせるのは、本当はよくない組み合わせなのです。

「おたくのアンプのXLR端子は2番HOT、それとも3番HOT?」

ここでは「そんなのホットいて」と笑い飛ばしています。どちらでも位相はおかしくない。右足から踏み出そうと、左足から踏み出そうと、どちらでも普通に歩けるでしょう?このことは「絶対位相」の論議と同じなのですが、ようするに位相は左右で合っていれば問題ないということです。

こういう、オーディオ業界のマーケティングの下心が振りまいた間違った定説や思い込みをいくつも取り上げています。曰く…

「単純に左右独立電源がいいと信じない方が良い」
「NFBを掛けると音が悪くなるという定説」
「スペックの整形美人に気をつけろ」

などなど。いずれも私としては読んで溜飲の下がる思いがします。

ルームチューニングやスピーカーセッティングの考えるヒントとなるのは…

「サントリーホールは何故音が寂しいのか」です。

ここでは音響建築工学の二大原理である「逆二乗の法則」(音圧は距離の二乗に反比例する)と「鏡像」について説明されています。逆二乗の法則は、点音源からの距離と空間密度の原理に基づいていますから、幅が狭い、広がっていかないウナギの寝床のような空間では実は音は小さくなりません。音が広がって聞こえるのは、一般常識に反して大きいホールではなくて、小さいホールなのです。音が良いのはウィーンのムジークフェラインのようなシューボックス型。サントリーホールのようなアレーナ型や、NHKホールのようなステージより客席の方が幅が広い扇形は音がよくないのです。このことは、広いリスニングルームは必ずしも音が良いわけではないということにつながっていきます。

具体的なスピーカーセッティングの話しは、さらに具体的に考えるヒントを与えてくれます。

セッティングの非常識(その1):スピーカーは左右非対称に置く
    〃     (その2):正三角形で聴かないこと
    〃     (その3):壁から50cmが一番怖い

これは読んでいて溜飲が下がる思い。いや、むしろ抱腹絶倒です。これまで、どれほどこういう間違った常識に囚われている人々を見てきたことか。ぜひ、本書を一読して「非常識」と見える「正解」を探り当てていただきたいと思いました。


もし、本書の購入をためらわれる方がいらしゃったらサウンドデザインのHPのブログを一覧されることをお薦めします。何だか立ち読みのススメみたいで出版社や著者にはちょっと申し訳ありませんが、なかなか面白い記事が次々とアップされています。

http://audiodesign.co.jp/blog/



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ケーブルを変える前に知りたい50のオーディオテクニック
大藤 武 著
秀和システム
タグ:絶対位相
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