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信任か選択か (hijiyanさん来訪オフ会) [オーディオ]

現状をよしとしこのまま将来を託してよいのか、そういう信任を問う。あるいは、現状にに対して別の解を示し交代を促す、ことある毎にそういう交代と選択を迫るのか。

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政治のお話しではありません(笑)。

定期的に定点観測的な相互交流をしているhijiyanさんがご来訪。前回は6月でしたので、大きな変更点は、パワーアンプの駆動バッテリーをデュアル化したことぐらいで、それ以外は細かなチューニングだけ。いわば、そういう熟成の味ををどう受け止めていただけたのかというところです。

一通り聴いていただいたところで、位相極性の実験をしました。

いわゆる《絶対位相》の実験です。

先だって読んだオーディオ本にはXLRコネクターの2番ホットか3番ホットか、端子極性は気にする必要はないということが書いてあるとご紹介したことがちょっと話題を呼びました。

https://bellwood-3524.blog.ss-blog.jp/2017-10-02

絶対位相のことは、ずいぶんと前のことになりますが何度か話題にしたことがあります。私の結論は、「否定も肯定もしないが、自分は気にしない。」というもの。まさに『そんなのホットいて』ということです(笑)。

ところが、相変わらずこれにこだわる人はいらっしゃるようで裏であれこれ言われているようです。hijiyanさんにちょっとそんなことをお話ししたところ、ぜひ、体験してみたいとのこと。

私のシステムには、位相極性を切り換えるスイッチはありません。ですからスピーカーケーブルの極性(赤白)をつなぎ換えることになります。2ウェイのマルチですから、バイワイヤと同じで、都合、4ペア計8本のケーブルをいちいち差し替えることになり、面倒くさいのでちょっと渋りましたが、hijiyanさんの熱意に負けて実験することにしました。

ソフトは、ふたりが定点観測に使っている幸田浩子さんの「アヴェ・マリア」です。言ってみれば互いに聴き慣れていてそのチェックポイントを知り尽くしているという、最もシビアなソフトということになります。

逆接続にしたところ、第一声は「違う!」のひと言。

これは私にとって想定内の反応(苦笑)。

私自身、最初は違うという気がしますが、何度か切り換えをくり返しているうちにど違いが感じられなくなってしまいちらがどちらかわからなくなります。そういう申し上げると「いや、絶対にわかる」と自信たっぷりです。

興味深いのは、それまでの試聴でCDP(Grandioso K1)のCD再生と、そのCDからリッピングしたものをHDDP(SONY HAP-Z1ES)でファイル再生したものと比較すると、リッピングは音像定位の安定度などで劣っていたものが、逆接続すると改善するというのです。

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そこで、少し気合いを入れて実験を繰り返してみることにしました。スイッチで切り換えるわけではないので厳密なブラインドテストは無理ですが、何度か接続を切り換えてテストしました。混乱させるためにわざと左右の接続を逆にしたりしましたが、さすがに聴き慣れたソフトですのでそれも即座に見抜いてしまわれました。2度ぐらいの切り換えではかなりの耐性で聴き分けておられます。けれどもCDPとHDDPとの切り換えもあり、途中にいろいろ話しをはさんだりしながらやっているうちに、やはり、最後は逆の評価になったりして大笑い。

最初に聴くと瞬時に違いを感じるけれども、頻繁に往き来を繰り返していると、次第に判別がつかなくなります。そもそもブラインドテストというものはそういうところがありますが、つまりは「違いがあるともないとも言い難い」というあいまいな違いです。人間の脳内の認知能力に依存することなので、慣れのようなものや感覚の反転のようなこともあるようです。

hijiyanさんの感覚にも、実は、いくつか矛盾があります。

ひとつはHDDPとCDPで、正逆の評価が反転することです。HDDPからはデジタル出力されいて、CDP内の同じDACで変換されているのでどちらも全く位相極性は同じです。それなのに同じソフトを再生して、HDDPは逆接続のほうが良くて、CDPは正接続のほうが良いというのは矛盾しているのです。

もうひとつは、私のシステムは、実は、逆相がノーマルになっているのです。金田式プリアンプの設計は、反転入力になっているからです。出力されるアナログ信号は入力に対して逆相になっています。これでご自身が持参したソフトも含めて散々いろいろなソフトを試聴していただいていたわけですが、何の違和感もないと仰っていたわけです。それを逆接続にしたところ「逆にすると違和感がある」と仰る。逆の逆は正ですから、本当は逆接続のほうがいわゆる正相接続になっているのです。

矛盾というわけではないのですが、hijiyanさんの感想はこれまでの絶対位相の議論からするとちょっと特異なところがあります。私の経験や多くの証言からすると、絶対位相の違いは多くは音場の奥行きや、音像定位の前後感、あるいは低域の明瞭度で感知されます。今回のhijiyanさんのように、左右の音像定位の安定感というふうにとらえるというのは、少なくとも私にとっては初めてです。改めて聴いてみると、この録音では幸田浩子さんの顔の向きや姿勢がステレオ音像の響きの微妙な違いとしてとらえられているようです。そこが、感じたり感じにくかったりということが、絶対位相の違いに結びつけられているというふうにも思えます。

さて…

それでは、なぜ、切り換えたとたんには違いを感じるのでしょうか?

人間の耳は位相にはとても敏感です。けれども絶対位相は感知しません。振動というものは本来は対称なものだからです。

オーディオ本が言うように「どちらでも位相はおかしくない。右足から踏み出そうと、左足から踏み出そうと、どちらでも普通に歩ける」というのが、物理学的な真実です。ちなみに、オーディオ本の著者は半導体技術者ですし、金田式の金田先生は秋田大学の物理学科教授でした。オペアンプの反転・非反転や、あるいはDACのアナログ出力の極性をいささか無頓着に考えるところは、実はメーカーのエンジニアも同じです。こういうところはXLRコネクターのピン接続だけに限らないのでDACの極性もいささか怪しさ満載なのです。「左右で合っていれば問題ない」と考えるのが物理工学の常識なのです。

それにも関わらず、聴覚が反応するのは、振動波形が対称ではないからではないでしょうか?

これはあくまでも個人的な仮説ですが、オーディオ再生という現実ではこういう対称性が完璧というわけではありません。現実は、エンジニアが考えるような理想とは違っていて、様々な歪みを抱えている…ということではないでしょうか。

その最たるものは、リスニングルームです。部屋の反射は複雑で、スピーカーからの直接音とは相対的に非対称な要素をふんだんに含んでいます。このことはバスレフから、バックロード、果ては後面開放型など逆相成分をふんだんに発生させればさせるほど複雑さは増します。

それ以前の、オーディオ機器にも非対称性は避けられません。ほとんどのアンプはプッシュプル回路を用いますが、その二つの素子の違いは避けられません。コンプリメンタリ回路は、見かけは理想の対称形ですが、P型とN型という極性の相反する素子を使うので特性の違いにより実は対称動作になっていません。真空管は同じ素子ですが、素子間の個体差が半導体よりはるかに大きいのでこれも対称的とは言い難いのです。

スピーカーのネットワークも大いに問題です。LCRで帯域特性を持たせれば必ず位相は回転しますので、上下のユニットをクロスオーバーさせている帯域では正確な合成はできていません。正確な合成が可能なのは、上下ともに-6dB/octの1次フィルターを組み合わせた場合だけです。-12dB/oct以上の急峻なスロープでは合成しても位相は複雑にうねってしまい正確な再生はできていません。さらに現実にはユニットの特性もあって、場合によっては逆相接続で組み合わせたりと非常に複雑です。3way、4way、サブウーファー、スーパーツィター…などなど、ユニット数が増えれば増えるほど複雑になり難しさが幾何級数的に増大します。

さらには、そもそも音源そのものが相対的な位相がそろっているとは限りません。たいがいのプロ用のマイクやミキサーには位相切り換えスイッチがついていて、ボーカルは逆相の方がいいな…などと録音やミックスダウンする時に簡単に位相を切り換えてしまうからです。こうした録音そのものに含まれる相対位相の違いが奥行きなどの聴感に影響するので、再生時にいきなり絶対位相をスイッチすると前後の定位がひっくり返って感じることがあります。

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こういう違和感は、あくまでの脳内認知の問題ですから、時間が経つと順応して本来の知覚に戻っていきます。いわば、老婆か少女かのだまし絵のようなもの。聴感が順応するまでに時間がかかるのです。身体が曲がっていれば、右足から踏み出そうと左足で踏み出そうとどっちだって同じだと言うわけには行きません。右利き、左利きということの感覚の違いは厳然とあるわけです。

部屋とスピーカーとの関係、あるいはシステム機器が不完全であればあるほど、絶対位相は感じやすい…というのが私の仮説です。


政治と同じで、どうも、二極にせよ三極にせよ、対立軸が見えにくくてピリッとしませんね(笑)。
タグ:絶対位相
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