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映画「音響ハウス」 [映画]

音響ハウスとは、銀座のはずれにあるレコーディングスタジオのこと。


最先端を走り続けてきたシティ・ポップの総本山ともいうべきスタジオの45年の歳月を、松任谷由実・正隆夫妻、坂本龍一、矢野顕子、佐野元春、綾戸智恵など名だたるミュージシャンが語るドキュメンタリー映画。

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映画は、こうしたミュージシャンたちをこのスタジオに招いてのインタビューを横糸にし、縦糸は、新曲「Melody-Go-Round」のレコーディングの進行に密着する。若干13歳の女性シンガーHANAをフューチャーしたこのコラボには、発起人のギタリストの佐橋佳幸とレコーディングエンジニアの飯尾芳史に加えて、大貫妙子、葉加瀬太郎、井上鑑、高橋幸宏ら、スタジオゆかりのミュージシャンが参加している。

平凡出版(現・マガジンハウス)により設立された音響ハウスは、レコード会社や放送局系列のスタジオが主流を占めるなかで異色の存在であり、すでに16トラックのレコーダーを備え、日本で初めて英国SSL社のコンソールを導入するなど機材面でも最先端を走りミュージシャンやCM製作者からも重宝がられた。坂本龍一などは、先に予約で埋めて入り浸っていたという。「戦メリ(戦場のメリー・クリスマス)」のサウンドトラックもここで生まれた。いわば、ニュー・サウンドの実験場でもあったわけだ。

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音響ハウスは、ミュージシャンが自由に出入りする交流の場になる。「用事があればここですべてが片付く」というような場所でもあったという。忌野清志郎と坂本龍一の意表をついたコラボ「い・け・な・いルージュマジック」が誕生したのも、資生堂のCMプロデューサーから呼び出され、何とか新しい感覚を打ち出そうと苦し紛れに言ったひと言から生まれたという。ミュージシャンのたまり場になっていた音響ハウスだからこそ生まれたコラボだった。

ビートルズの「アビー・ロード」のように何日も籠もってという時代ではなくなっていたけれど、ミュージシャンたちは簡単な譜を持ち寄っただけで、合わせながら曲を作っていくというのもこのスタジオならではのこと。松任谷由実たちも、スタジオの響きが自分に戻ってくるという作用が音楽を生むと証言する。このスタジオは、音響面でも抜群だし、ピアノなど楽器や機材も充実している。

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縦糸となるレコーディング風景も面白い。テイクと打合せを重ねていくシーンは和気あいあいで楽しそうだが、エフェクトのかけ方からフレージングの微妙な変更が矢継ぎ早に繰り出されるのはプロの仕業。葉加瀬太郎が、こちらの弓は音に厚みがあるが音が重め、こちらは華やかだが繊細な音がすると弾いて聞かせる。一発で後者が選ばれ「こっちは所有するなかで一番値段が高い弓だよ」と破顔一笑。

詞を提供した大貫妙子が、ボーカルの13歳のHANAにアドバイスするシーンも印象的。彼女のボーカルがみるみるうちに生気が吹き込まれていく。その大貫は、バックコーラスも録れる。そのバランスをミキサーが迅速的確に修正していく。

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音響ハウスは、2つのスタジオがある。1st.は、小オーケストラも入る大きなスペースで、特にストリングスの響きは多くのミュージシャンのお気に入り。綾戸智恵のお気に入りのスタインウェイもここにある。ブースもいくつかあって、矢野顕子の子供たちは、そこで宿題をやったり仮眠したりしたそうだ。

一方の2st.はシュアなリズム録りやブラスダビングに使用する。さらにいくつか小スタジオや、マスタリングルームもある。

マスタリングルームでは、モニタースピーカーの横に大きめのラジカセが映り込んでいた。曲の最後の仕上げで「ちょっと、こっち…小さいので聴いてみようか」と確認するシーンで鳴っていたのは間違いなくこのラジカセだろう。そうした商品としてのトータルチェックは、白いコーンでおなじみのNS-10Mがよく使われて、それを通称「ラジカセ」と呼ばれることがあるとは知っていたが、ホンモノのラジカセが使われているのは初めて見た。

ラジカセは画面には登場しないが、音は切り替わって、ちょっとナローレンジになる。もちろん《空気録音》のはずはないが、こういう映画だけにサウンドトラックへのこだわりはあって、例えば、テイク毎のコンソールの操作の微妙な違いを聴き取ることは、この映画を楽しむ大事なポイント。

映画館は、渋谷・ユーロスペース。

ユーロスペースは、80年代のミニシアターブームで名をはせた。いまの場所に移転してきても、ラブホテル街の一角だけに、ちょっと怪しげで何となく便所くさい映画館というような印象が強い。

ところが今回、久しぶりに行ってみると、音響もよくなっていたのは意外だった。両サイドの壁上方にあるサラウンドのスピーカーをしげしげと眺めると、小さくメイヤーサウンド(MeyerSound)のロゴが見える。この映画もサラウンドっぽいシーンもあって、今や、こんなオタクっぽい映画でも、高音質のサウンドシステムで鳴るように作ってあるのだと見直した。


シティ・ポップの熱くディープなファンはもちろんですが、オーディオ・マニアにも観てほしいちょっとマニアックなドキュメンタリー映画です。

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