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ブッフビンダーのベートーヴェン (ピアノ・ソナタ全曲演奏会 Ⅶ) [コンサート]

ベートーヴェンのソナタ全曲演奏会もついに大団円。

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最後の3つのソナタ。それはまさに万華鏡のよう。

ベートーヴェンの重ねてきた革新。数は限られるけれど、その彫琢は研ぎ澄まされて燦然と輝く。ブッフビンダーが自在にピアノを繰って変幻自在に造形した色ガラスの切片のすべてを、ベートヴェンの集大成として回顧披瀝する。くるくるとめぐってそれは前と同じのようでいてすべてが違う万華鏡。

しかもブッフビンダーは、その3つを休憩も入れずに連続して弾ききってしまいました。

第30番は、内面的な叙情性に満ちていて美しい。第一楽章は、高く透明な青空を子供のように見上げているような哀しいほどに澄み切った幸福感に溢れている。
突き進むような第2楽章は簡素で強い。最終楽章は、ひとつひとつがゆっくりとした息の長い歌にもとづいた変奏曲。回想をめぐらすような心境が、フーガで高まると魂がひらひらときらめくように明滅しながら静かに消えていく。ハンマークラヴィーアで極め尽くしたフーガには厳めしさは消えていて実に誠実で清らか。シューベルトやシューマンを予感させながら、すでに彼らを超えてしまったようなピアノ。

第31番は、古典的な優美さに叙情的な歌唱で始まる。スラーとテヌートを極め尽くしたようなカンタービレの世界。第2楽章は、ドイツ的な舞曲。明朗で親しみがあって時よりくつろぎに満ちたユーモアもある。でも何と言ってもこのソナタを印象づけているのは、終楽章の古典様式を超越してしまったような長大でとてつもない幻想曲とフーガ。この楽章自体が、ベートーヴェンの全ての回顧のようだとさえ思えます。

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最後の第32番が、ベートーヴェンこだわりのハ短調というのも何だか偶然とも思えません。劇性に緊張に満ちたハ短調と、それとは対称的なは透明で純粋。その二楽章だけのソナタなのに、天国的に長く感じる。それでいて終わった瞬間にはっと目覚める。ブッフビンダーは、ドイツの巨匠たちのような峻厳もごつごつとした威厳とも無縁。20世紀半ばに活躍したバックハウスとかケンプだって、この曲にジャズのようなグルーブ感覚が横溢していることは自覚していたとは思うのですが、ブッフビンダーの演奏には実に自由でどこまでも突き進むような高揚感があふれていました。これはほんとうに凄いことだと思うのです。

ベートーヴェンは決して孤高ではない。孤独や孤立とは正反対でベートーヴェンが切り開いてきた世界は、時代や場所を問わず大きな影響を与えたし、今も新鮮な感動を与えてくれる。ベートーヴェンの音楽は、すぐに同時代のシューベルトに受け入れられ、宮廷音楽や古典形式の扉を破って、その後のシューマンらのロマン派の音楽家たちによって継承発展してきた。特に、ピアノソナタは最も象徴的。

全曲演奏だからこそ、それがわかったという気がします。なおかつ、ブッフビンダーだからこそ。

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アンコールがそのことを示しています。シューベルトの情感あふれるアルペジオとスケールの連続を聴いて、聴衆の陶酔は、大爆発。東京のソロ・リサイタルでは希な総立ちのスタンディングオベーションとなりました。



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ルドルフ・ブッフビンダー(ピアノ)
ベートーヴェン ピアノ・ソナタ全曲演奏会Ⅶ

2024年3月Ⅶ日(金)19:00
東京・上野 東京文化会館小ホール
(H列24番)

ベートーヴェン:
ピアノ・ソナタ第30番 ホ長調 op.109
ピアノ・ソナタ第31番 変イ長調 op.110
ピアノ・ソナタ第32番 ハ短調 op.111

(アンコール)
シューベルト:4つの即興曲 op.90 D899 より 第4番 変イ長調

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