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「蘇我氏四代」(遠山美都男 著)読了 [読書]

私たちの世代までは、蘇我氏は専横のままに政治を壟断し王権を簒奪しようとした極悪人で、大化の改新で中大兄皇子と中臣鎌足に誅せられたのも当然というように教えられてきた。

著者は、そういう蘇我氏四代に不当に課せられた汚名の虚偽を暴き、えん罪を晴らしていく。曰く、蘇我氏は葛城氏の正統を受け継ぐ群臣筆頭の家柄であり、蝦夷も入鹿も王権の意に忠実に従い為政に精励した忠臣だったと説く。

蘇我氏の歴史的評価見直しが、古代史研究の大きな転機であったことは間違いなさそうだ。王位というものが有力豪族の間でどのような位置づけだったのか、後継指名のあり方をめぐっての争いを通じて古代王権の確立に至った経緯が近年ずいぶんと明らかになってきた。王の在所、政権の執政所は、背景となる有力豪族によって左右されていたが、集権の象徴としての王都建設が政策の主眼となって争点ともなっていく。

「書紀」や「古事記」などのテキストを批判的に解読し、その記述の齟齬や矛盾を丹念に読み解いていく手法はとても丁寧だが、読者にとってはいささか退屈で難渋の連続。

文献学的な手法で読み解いても、正史というものは編纂にあたっては政治的な価値観に左右されているわけだから、本来は、後世の私たちがそれをどのようなバイアスで読み取ったかとかいったことが問題であって、必ずしも歴史的な事実の探求たり得ない。えん罪を晴らしたところで真犯人や新事実は現れてこない。本書にはそういうもどかしさがある。

「臣、罪を知らず」というのは、入鹿の断末魔の叫びだったが、では、入鹿は誰かにはめられたのか。それにしても、大王面前の公式行事の最中の血生臭いクーデターはあまりにも異様である。その犯人と真の動機が解明されないのでは、それまで耐えて読んできた長文が何だったのかという欲求不満がつのる。

結末の欲求不満に加えて、厩戸皇子(聖徳太子)の血統がなぜにこれほどまでに排除されたのかという謎も深まるばかり。

歴史に勧善懲悪はあり得ないというのはあたりまえの時代。そのことを定着させたことに著者は貢献したことは間違いないが、その先がほしい。古代史には、まだまだ謎が多い。

蘇我氏四代_1.jpg

蘇我氏四代  臣、罪を知らず
遠山美都男 (著)
ミネルヴァ書房 (ミネルヴァ日本評伝選)
2006年初版

タグ:蘇我氏四代
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