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リチャード・トネッティ&オーストラリア室内管弦楽団 [コンサート]

一度は聴いてみたいと思っていました。プログラムが編曲ものだけなので、ちょっと躊躇しましたが思い切って足を運びました。そのプログラムがかえって面白くとてもよい体験になりました。

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《室内管弦楽団》(“Chamber Orchestra”)と称していますが、正規団員は17人。すべて弦楽器奏者です。演目は弦楽合奏に限っているわけではありませんが、実際はストリングオーケストラというのに近い。

少人数の固定メンバーということもあってその結束力は親密で固い。それがアンサンブルの自由で開放的な雰囲気に現れているような気がします。個人の極めて高い音楽性と技術が、一段高いところにある音楽的統一性のもとに自発的なアンサンブルを形成している。リチャード・トネッティという卓抜した才能が率いているものの、個々の団員は対等であり指揮者は置いていません。

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そのメンバーがプログラムに紹介してあります。

顔写真とともに、それぞれの楽器がクレジットされている。いずれも古今の名器ぞろい。楽器名をこうやって明記しているところにこのアンサンブルのプライドを感じさせます。

プログラムを一貫するテーマは《クロイツェル・ソナタ》。

一曲目のヤナーチェクの弦楽四重奏曲からの編曲。正直言って、これは当初の懸念が当たったかな…と思いました。原曲は飛びきりの名曲で、聴く機会も多い。特に近年、若く勢いのある四重奏団がこぞって取り上げる曲。むしろ、一本一本の個の筋が透徹している音色や響きが失われる合奏では不満が残ります。

二曲目は、そのヤナーチェクに学んだハース。同じように弦楽四重奏曲からの編曲なのですが、これは面白かった。初めて聴くので原曲を知らないということもあるのでしょうか。演奏からは、これが四声からの編曲だとは信じられないような多彩で変化と機知に富んだ曲となっています。モラヴィアという出自にとどまらず、様々な中欧の自然の息吹とともに新大陸の都会のさざめきや近現代の人工物の模倣的擬音がラプソディ的に自由に展開する――楽しいひとときでした。

ハースの悲劇は、プログラムを読んで知りましたが、若い頃に作曲されたこの曲にはそんなものは微塵も感じられません。ナチズムの台頭と戦争が突然にこの作曲家の運命を一変させたのです。国外に逃れようとしましたがそれを阻まれて強制収容所へ送られガス室で命を落とすことになります。このコスモポリタンな曲に秘められた悲劇を知ることは大事な側面だと思います。

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休憩後の《クロイツェル・ソナタ》。

トネッティの編曲は、2000年にイヴリー・ギトリスを客演に迎えた際に初演されたもの。ヴァイオリンとピアノが丁々発止と渡り合う原曲を、ヴァイオリン協奏曲風にアレンジしています。今回、ソロを演じるのはもちろんトネッティ自身です。

ピアノを弦楽オーケストラに置き換えるわけですが、そのアンサンブルには巧妙な彫たくが施され、ソロあり、弦楽四重奏ありで変幻自在。古典的な弦五部でもなく、もちろんバロックの合奏協奏曲でもない独特の響きから生まれる独創的なソロ・コンチェルト。とにもかくにも、この弦楽オーケストラの自発的で才気渙発なこと。ピアノではなく同質の音色によるオーケストラだからこそ現れる、モチーフのフレッシュなやり取りや、ソロに押しては引き、泡立ち渦巻くように呑み込んでいく波のような音響の動きに煽られること煽られること。

どこから湧いて出てきたのだろうというほどに押しかけた外国人の英語でいっぱいの客席が沸きに沸いていました。アンコール曲が秀逸で、やはり弦楽四重奏曲からの編曲なのですが、バーバーの「アダージョ」のように弦楽アンサンブルの蠱惑的な響きの模範的な演奏へと見事に回帰していました。





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リチャード・トネッティ&オーストラリア室内管弦楽団
2023年10月10日(火)19:00
東京・四ッ谷 紀尾井ホール

リチャード・トネッティ(リードヴァイオリン)
オーストラリア室内管弦楽団

ヤナーチェク:
弦楽四重奏曲第1番ホ短調《クロイツェル・ソナタ》
(トネッティ編 弦楽オーケストラ版)

ハース:
弦楽四重奏曲第2番《オピチ・ホリから》op.7(トネッティ編 弦楽オーケストラ版)

ベートーヴェン:
ヴァイオリン・ソナタ第9番イ長調 op.47《クロイツェル》(トネッティ編 弦楽オーケストラ版)

(アンコール)
トーマス・アデス:
弦楽四重奏曲《アルカディアーナ》op.12より
第6楽章〈O Albion オ・アルビオン〉(弦楽オーケストラ版)
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