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上岡敏之と読響メンバーによる室内楽 (読響アンサンブル・シリーズ) [コンサート]

読響アンサンブルシリーズ。今回は、指揮者の上岡敏之のピアノを中心としたピアノ五重奏づくし。

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ひとくちにピアノ五重奏といっても、この日の三曲はすべて編成が違います。「づくし」という所以です。

このシリーズは、開演前にプレトークがあります。読売新聞記者の鈴木美潮さんの巧みなナビゲーションで語られるリーダーの解説や裏話がとても面白くて、毎回楽しみにしています。

ところがこの日の上岡の話はひどくわかりにくかった。ピアノを実際に弾いたりするご高説は興味深いものがあるのですが、質問に答えるでもなく話しが進むうちにひどく脱線していき趣旨がよく聞き取れない。

最初のモーツァルトの「アダージョとロンド」は、もともとはグラスハーモニカのための曲。その独特の肌触りの音色をピアノに置き換えての演奏になるわけですが、さっそく上岡は、これをピアノでどういう音色で弾き分けるかという話しになる。その弾き分けが面白いのだけど、それが、チェンバロ風ならこういう風とさっそく脱線する。そのうちに晩年のモーツァルトの貧窮ぶりと、曲の使い回しといった話しになって、何が何だかわからなくなる。

後半のシューマンは、ピアノと弦楽四重奏というスタイルを確立させた画期となる名曲なわけです。クララとの結婚を果たし安定した幸福な生活を反映させているという定説を切り口として話しを向ける鈴木さんに対して、上岡は長々と口舌を尽くすが、どうも要するに、シューマンは二面性があってコトはそう単純ではないと言いたいらしい。変ホ長調は、安定した幸福な生活にも通じますねと鈴木さんが水を向けても、これまた上岡はフラットの音調というのは…から始まって、ベートーヴェンの変ホ長調というのは違うし、常にハ短調が隠れていて…とあれこれ話しが飛ぶ。作曲当時、シューマンはクララとともにバッハ研究をやっていて…という話しも、結局、時間切れ。上岡のせかせかとした口調とピアノ弾奏との行ったり来たりで話しが断片的で尻切れトンボのままに終わってしまいました。

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そんな上岡の独演講義っぷりは、いささか実演にも反映していたような気がします。

最初のモーツァルトでは、冒頭の和声がはっとさせるほど印象的。なるほどこれがグラスハーモニカの音調を誘導するものなのかと感心する間もなく上岡のピアノでぶち壊し。確かに、プレトークで上岡は「今日はピアノ調でやってみる」と言っていた通り。なぜ、グラスハーモニカ風にピアノを弾かないのかは不明。凡演に終始しました。

二曲目のピアノと管楽器のみによる五重奏。個々の妙技としては大いに楽しめました。さすが読響の木管楽器軍団は素晴らしい。特に、どんな楽器にも融和し音色のパレットを多彩にするクラリネットの中舘、ふだんあまり目の当たりにすることの少ないファゴットの井上の妙技にもうならせられました。ピアノは、終始、浮いていました。

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後半のシューマンは、なかなかの熱演でした。

この編成がスタンダードになったのは、やはり、ハイドン以来の弦楽四重奏曲が定着し名四重奏団を輩出するようになったからなのだと思います。そうしたコンビネーションに慣れた現代人の耳にとっては、出だしの弦楽アンサンブルはやはり一体性に不足を感じさせます。個々の音立ちはよいのですが、ハーモニーに清冽さが欠ける。微妙な音程や、ミックスのバランスを取るのは、オーケストラなら指揮者やコンマスの役目ですし、常設の四重奏団なら誰かがリーダーシップを取るはずです。こういう特設の編成では、そこのリーダーシップが不在なのでしょう。そのことだけは終始不満が残りました。

それにしても、第二楽章のハ短調は心に残りました。こもりがちなヴァイオリンの響きのなかに、独特の燻した色調のヴィオラがもらす慨嘆のため息が聞こえ、チェロがむせぶように泣く。これこそがフラット三つの効果なんだと感嘆。生演奏ならではの効果です。

ほとばしるように熱かったのはフィナーレ。主題を重ね合わせた二重フーガが始まると、それはもう愛の交歓ともいうべき高らかな幸福の凱旋とも感じさせます。そこに分裂的で複雑なものの予兆や未解決な何かを感じるのは、シューマン夫妻のその後を知っているからこそなのでしょうが、シューマン独特の複リズムや複調性への底辺での嗜好が滲み出るような見事な大団円でした。




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読響アンサンブル・シリーズ
第40回 《上岡敏之と読響メンバーによる室内楽》
2023年12月1日(金) 19:30~
トッパンホール
(M列 14番)

ピアノ=上岡敏之
ヴァイオリン=赤池瑞枝、山田友子、ヴィオラ=長岡晶子
チェロ=室野良史、フルート=倉田優、オーボエ=金子亜未、
クラリネット=中舘壮志、ファゴット=井上俊次、ホルン=日橋辰朗

モーツァルト:アダージョとロンド K. 617
 [上岡][長岡][室野][倉田][金子]
モーツァルト:ピアノと管楽のための五重奏曲 変ホ長調 K. 452
 [上岡][金子][中舘][井上][日橋]

シューマン:ピアノ五重奏曲 変ホ長調 作品44
 [上岡][赤池][山田][長岡][室野]

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