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フレア (マガデュール&メルラン&ディリュカ) [オーディオ]

NHKFMのベスト・オブ・クラシックで放送されるライブ音源には、意外な取り合わせの豪華なアンサンブルが放送されることも多い。最近、秀逸の演奏を聴かせてくれたのが、マガデュール(Vn)、メルラン(Vc)、ディリュカ(Pf)の3人。

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シャニ・ディリュカは、新進若手の女流ピアニスト。このピアノに、これまた話題の若手クァルテットであるエベーヌのメンバー二人が合わせていき、最後には三人でのトリオが演奏される。

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会場は、オーストリアのアルプスのふもとシュヴァルツェンベルクで催される「シューベルティアーデ・シュヴァルツェンベルク(Schubertiade Schwarzenberg)」音楽祭。1976年に始まり、今では声楽、室内楽、ピアノリサイタルが多数催され、オーケストラのコンサートや講演会、マイスターによる講習会までが開かれる世界屈指のシューベルト音楽祭となっています。

主会場のホールは、この地で育った18世紀の女流画家の名を冠したアンゲリカ・カウフマン・ザール。

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カウフマンの父親は、貧しかったが熟練した腕を持つ画家で、絵のためによく旅をし、娘を連れて長期間にわたってイタリアを旅行し娘にも絵を教えた。彼女は絶えず読書し、音楽の才もあったという。人気の肖像画家となっても「彼女は美しいと言えるかも知れない。そして歌わせれば、最高のヴィルトゥオージと肩を並べるかも知れない」とたたえられたそうです。

エベーヌの二人は、ジャズ・ドラムやジャズ・ピアノも学んだことで知られている。クァルテットのコンサートでも後半は自らが編曲したポップなジャズ・スタンダードで埋め尽くされるという風に、音楽性の幅が自由奔放なほどに広く、その表現力はダイナミックで冒険心や創造力に富んでいる。

ところがこのコンサートのプログラムは、いたってオーソドックス。

けれども、やはり、その音楽は表情に富んでいて伸縮自在な歌に富んでいる。そういう二人をディリュカのしっかりとした構成力で支えているという構図。

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一曲目のチェロとのデュオでも、シューマンの歌が浪々と歌われていて、その流れるような肌合いの叙情性がとても美しい。

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二曲目のグリーグのヴァイオリン・ソナタは、そういうシューマンをよく引き継いでいた、これまた叙情性がとても豊かな美しいヴァイオリンの表情が千変万化する様は聴いていてとても心地よい。

圧巻は、後半のシューベルトのトリオ。

アンサンブルというのは、それぞれの演奏家の個性がぶつかり合い、互いに美しい色彩のコントラストを見せるというコラージュ・タイプか、あるいは、緻密な合奏と美しい音色の融和と調和を聴かせるハーモニー・タイプか、そのどちらかなのだと思います。

ところが、ディリュカが加わっての三人は、そのどちらでもない。

エベーヌは、抜群の合奏能力をベースにしながら、そういう個性的な創造力のきらめきを競い合うようなアンサンブルで、この二人もそういう色彩と表情が前に出てくるタイプなのですが、ディリュカがそういう二人を自分の素地にしっかりとのせていて、もっとずっと知性的でケミカルで融合的なアンサンブルを形作っています。そのピアノの音楽的素地は自然で素朴な風合いで冷静でさえあるのですが、決して冷たいものではなく次第にどんどん熱を帯びていきます。

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信楽焼というのは、土中の鉄分が赤く発色する火色がさながら残り火のような素地を見せ、窯の中の炎の勢いで、降りかかる薪の灰と釉薬とが融合して複雑な流れを作り、その自然で素朴な風合いが室町・桃山時代の茶人に愛されたそうです。

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テレビドラマでは、経済的なリスクの大きい登り窯(穴窯)に挑戦し、そういう古信楽の技法を復活させた女流陶芸家が主人公で、ただただ主演の戸田恵梨香の演技力の凄みに見入りました。そのテーマ音楽は、越智志帆の作詞/作曲による、そういう消えかけてはまた燃え上がる心の炎を歌ったもの。

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この三人のシューベルトは、そういう、土とガラスやミネラルと炎が醸し出す、実にフレッシュで、しかも、とてもロマンチックなシューベルトになっていたのです。





「アダージョとアレグロ 作品70」 シューマン作曲
「バイオリン・ソナタ第3番 ハ短調 作品45」 グリーグ作曲
「ピアノ三重奏曲 変ホ長調「ノットゥルノ」」シューベルト作曲
「ピアノ三重奏曲 変ホ長調 作品100」 シューベルト作曲


~オーストリア・シュヴァルツェンベルク
アンゲリカ・カウフマン・ザールで収録~
(2019年6月24日)
(オーストリア放送協会提供)

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