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アタック、ディケイ、サステイン、リリース (トランジェントって何?) [オーディオ]

トランジェントとは、音の立ち上がり、立ち下がりといった過渡現象のことで、オーディオの性能でその応答特性が左右される…。

それでは、特性がよければそれでよい音に聞こえるのか?というと、それがそうでもない…というのが今回のお話です。


というのも、トランジェントというのは何も工学的な伝達関数の問題だけではなく、自然現象でもあって、それはつまりは楽器の音そのものにもつきまとうからです。そのことはむしろミックスエンジニアたちの方がはるかによく知っています。

プロのエンジニアやミュージシャンは、そういう楽器音のトランジェントを聴き取って音楽を作っています。トランジェントを、立ち上がりから減衰までを4つの成分に分けて、音量や音色の時間軸上での変化を捉えているのです。

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アタック(立ち上がり)
ディケイ(立ち上がりから少し音量が減衰するところ)
サステイン(同じ音量が持続する部分)
リリース(音量が減衰するところ)

まず楽器の“らしさ”(個性)を決めるのはアタック部分。

ここは高調波、すなわち倍音をふんだんに含んでいて高域が中心となります。ピアノの音を聴いてこれはピアノと分かるのはこのアタックがあるからです。ベースやキックドラムの低音であっても、スーパーツィーターを加えると“らしさ”が増すというのも低音楽器にもアタックがあるからです。

一方で余韻部分は、低域寄りの成分がメインで、ギターやピアノ、あるいは打楽器であってもボディがあるからこそ豊かな余韻が得られるのです。音色をふくよかに感じさせるためには余韻が豊かであること、つまり、サステインで低域が多めで長めになっていることになります。逆に、音色をタイトに抜けよくさせるには、余韻を削らなければなりません。

こういうことを、ミキシングエンジニアたちは、コンプレッサーやイコライザーなどのエフェクターをミリ秒単位で巧みに操作して音楽を作っていきます。キックドラムとベースが被って聴き取りにくい部分はアタックをミリ秒でずらすということもします。そうすると両者の存在感が分離して聞こえてくる。ミリ秒ですから人間の耳にはリズムがずれるとは感じさせません。

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トランジェントは、遠近感をも左右します。

聴感上の音の奥行きや遠近感(距離感)は以下の4つの要素が作用しています。

■音量
音量が大きければ近くに、小さければ遠くに感じらる

■周波数特性
音の高域成分が多ければ近くに、高域成分が少なければ遠くに感じられる

■残響成分
音の残響成分が多いと音は奥へ、少なければ前に出てくる

■トランジェント
音の頭の立ち上がり(アタック)が鋭いと音は前に出て、鈍いと音は後ろへ下がる


音量や残響で、前後の立体感が形作られるのは、わかりやすいと思いますが、トランジェントは、意外に気づきにくい要素です。しかも、音量、周波数特性(スペクトラム)、残響(余韻)のすべての要素を時間軸上の変化として動的に含んでいます。

アタックが立つと近くなり、抑えられると遠く感じるということは、多くの打楽器の組み合わせであるドラムセクションの音がわかりやすいかもしれません。ドラムセットでは音量や叩くパーツによってアタックが違うので、例えばシンバルだけがやたら前に飛び出すなど、そのままでは遠近感が不自然になってしまいます。

クラシックなどでも、音色をきれいにしようとするあまり、ヴァイオリンやボーカルのアタックがまるまって倍音が不足すると、ピアノがソリストよりも前に出てきてしまいます。それを自然に、しかも、音楽性豊かに収めていくことが録音エンジニアの腕であり、ミュージシャンやプロデューサーのセンスということにもなります。

オーディオでは、こうしてエンジニアやミュージシャンが作り上げた音をいかにそのまま再現するかということが使命ということになります。その前提として、エンジニアたちもできるだけ多くのリスナーに楽しんでもらえるような客観性の高いシステムでモニターするということが求められます。やたらにハイエンド映えするようでも、ラジカセのローファイにおもねるわけにもいかない。バランスも求められます。

逆にみれば、リスナーも余りにカリカリに機器の性能アップをすれば、かえって「聴き疲れがする」とか「高域がきつい」ということになりかねない。一方で、心地よい、ふくよかで低域の豊かな音を求めるあまりに、個性に乏しい凡庸で活気に乏しいつまらないBGMになってしまったり、NHKホールの最後方席のそのまた後ろに立って聴くような音にしてしまうことも戒めなければならないと思うのです。

トランジェントというものを、理論とか測定など再生側の理屈だけでコチコチに追求しても詮無いところもあります。原理的に避けられない現象だし、非線形性が複雑に絡み合う機械系ではさらに難しい。しかも、もともとの音楽、原音にもそういう現象が含まれているし、それを利用しているところも多々あるからです。最終的にはやっぱり聴いてなんぼということではないでしょうか。

トランジェントの原理をある程度、理解していればシステムのチューニングにも大いに役立ちます。ピアノがピアノらしく聞こえず電子音のように聞こえれば、それは高域不足だからだ…、キックドラムがもわつくのは低域が遅れているのではないか…、アコースティックギターのボディがやせてしまっているのは中低域の分解能が低下しているのではないか…、音像が奥まって遠くなったり、残響が聞こえにくいのはSNが悪いのではないか…という風に。

こういうことは、もちろん電源や機器の個性もありますが、むしろ、それよりも、機器の相性やセッティング、部屋の反射・共鳴の影響であることがほとんどです。クセを持たせたケーブルやインシュレーターなどアクセサリーの弊害ということも多い。ミキシングのエフェクターの逆の作用です。それを聴きわけ、客観的にコントロールしていくことが求められるわけです。

そのためには、できるだけたくさんの個性豊かな音を聴き、耳の経験知を深めることが大事なんだと思います。
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