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オーバーシュート (トランジェントって何?) [オーディオ]

やたらにカタカナを使いたがる某知事が「オーバーシュート」と言い出して、オーディオ好きとしては何だか場違いな言葉遣いじゃないかと思ったけれど、感染学の専門家も、以来、同じ言葉を連呼しているのであながちヘンではないらしい。

ここから思い浮かべるのは「トランジェント」という言葉だけれど、これもオーディオ用語として、実のところ意味不明の言葉のひとつ。その兄弟分の用語として「スピード感」というのもある。

さて…

トランジェント(Transient)とは、工学的には『過渡応答(過渡現象)』のこと。

ある状態(A)から(瞬時に)ある状態(B)へと変化させるときに、ふたつの状態の間にそのどちらとも違う状態(C)が起こる。過渡現象とはその(C)の非定常状態の時間的変化をいう。

過渡応答の性能評価.jpg
過渡応答の評価.jpg

(図は、東京大学工学部航空宇宙工学科・土屋・伊藤研究室の資料を拝借)

その過渡現象のなかに、(B)を飛び越えてしまう状態が生ずる。これをオーバーシュート(行き過ぎ)という。このオーバーシュート状態で激しく上下することをリンギングという。波形などを見てもいかにもよい音がしそうにない。「オーバーシュート」と聞くと真っ先にこれが頭に浮かぶ…というわけです。

「スピード感」という言葉については、よくスピーカーのことで使われる。つい先日、別のSNSのコミュでも散々話題になった。議論は百花斉放、果ては、『音速は一定だから、スピードの違いなどあるはずがない』などとという発言まであってトピ主を辟易させていました。

「トランジェントが良い」「スピード感がある」という評価は、おおよそ次のような議論だと思う。

・低音が遅れる(遅れない)
・立ち上がり・立下りが速い
・キレがある、歯切れがよい
・音が出た後余分に鳴らない
・クリーンで明瞭、濁りのない音がする

一方で、「トランジェントが良い」ということが、必ずしもオーディオ的に良い音とは受け取られない面もあって…

・聴き疲れする
・音の頭(アタック)や高音が目立つ(=バランスが悪い)
・サ行が目立つ、耳障り

さらにちょっと高度な議論としては…

・余韻や残響が聞こえる
・奥行きや前後などの立体感がよい
・高周波特性のよいケーブルは音がよい

などということも、トランジェントの作用として議論されています。


要は、アンプの電気回路や、スピーカーの性能が悪いために引き起こされる過渡現象によって正しく再生されず、音が歪められてしまうということになります。特に、電気回路と機械系が相互に作用するスピーカーでは顕著だというわけです。

わかりやすいのは、共振周波数で最大となる群遅延で、低域の量感を求めるあまりにQを持ち上げるとかえって低域がどんどん遅れるというわけです。バスレフやバックロードではありがちな落とし穴。

アンプで電源が重要だということは万人が認めるところだと思いますが、トランスをトロイダルやRIコアにして高級化(のつもりに)したり、平滑コンデンサの容量を大きくしてしまうと、実はかえって電源のトランジェントが悪くなるということはあまり知られていない。高価なハイエンド機が、かえって大人しい退屈な音になっている場合があるということに気づかないひとも多いのです。

要するに、「トランジェント特性がよい」=「正しく伝達できている」ということに尽きるということになります。

ところが、必ずしもそういうことだけではない…というのが、この話の続きです。

そのヒントは、上記の「必ずしもオーディオ的に良い音とは受け取られない面もある」ということに隠されています。

お話が長くなるので、この続きは次の日記で。

(続く)
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