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「ウィーン楽友協会 二〇〇年の輝き」(オットー・ビーバ、イングリード・フックス共著)読了 [読書]

音楽の都ウィーン、なかでもクラシック音楽の殿堂とも言えるのがウィーン楽友協会。

創設されたのが1812年、今から200年前ということになる。

1812年といえばチャイコフスキーの序曲を思い浮かべる。その創設はまさに、対ナポレオン戦勝記念の音楽会場の確保と運営が起源となった。「会議は踊る」と揶揄されたウィーン会議(1814年)では、皇帝から会議のために演奏会を委託される。その歴史は、音楽の担い手が宮廷・貴族から、市民階級へと移行した歴史をそのまま反映している。当初は、宮廷というパトロンを失った公的な演奏家教育をも担ったという。現在の建物は二代目で、城壁を壊し環状道路を建設する大規模な都市開発にともなって建設された。

楽友協会は、ほとんどのクラシックファンにとっては、ほぼムジークフェラインスザールというコンサートホールと同義といってよいだろう。

ただし、そのホールから連想されるウィーン・フィルとは別物。

ウィーン・フィルは、宮廷歌劇場管弦楽団メンバーによる自主運営の楽団だということはよく知られている。協会が組織し運営したのはディレッタントと呼ばれるアマチュアの演奏家たちによる楽団。今の合唱団はその伝統を引き継ぐが、オーケストラの方はプロ集団となり、いわばレジデンツオーケストラというべきものが傘下に設立されたのは、今のウィーン交響楽団の前身だそうだ。

ウィーン・フィルは場所を借りているに過ぎない。だからウィーン・フィルのボックスオフィスは別の建物。楽友協会は、音楽祭などを主催するが、その特別演奏会に客演するのはウィーン・フィルに限らないというわけだ。

つまり、本書は、徹頭徹尾、ハコモノとしての楽友協会のお話し。

5章に分かれるが、圧巻で充実しているのは、最終章の資料館のお話し。

この建物に資料館なるものが存在することを知らなかった。よくあるゆかりの音楽家などの遺品を集めた展示室というような程度ではない。もちろん、ベートーヴェンの補聴器なども展示されるそうだが、その蒐集は音楽家の遺物や肖像画などにとどまらず現存する最初期のチェンバロなどの古楽器にも及ぶ。

ちょっとした博物館だが、その中心は貴重な自筆楽譜や遺稿、古楽の初版譜など。その蒐集は設立当初からの歴史があって、音楽を歴史的に記録するという視点から資料収集を行った最初の組織だという。市民革命により貴族や教会などが収蔵していたコレクションが散逸、消失するのを救ったのが楽友協会の資料館ということなのだそうだ。

ふたりの共著なので、各章をまたがって、じゃっかん記述が重複するのがちょっとわずらわしい。でも、ざっとした歴史の紹介で読みやすく、カラー写真の口絵や挿入の図版が豊富でビジュアルな楽しみもある。すでにウィーンに行かれた方には思い出を振り返るお土産がわり、これから行く機会をうかがっている方にはガイドブック代わりとしても楽しい。



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ウィーン楽友協会 二〇〇年の輝き
オットー・ビーバ (著), イングリード・フックス (著), 小宮 正安 (翻訳)
集英社新書

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