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シャルラン・レコード [オーディオ]

オールド・アナログ・ファンには懐かしい伝説のレーベル。

フランスの独立系レーベルで、天才エンジニアと言われたアンドレ・シャルランが自らの名を冠して立ち上げた。1960年代にかけて次々とLPをリリースしたが、一貫してこだわり抜いたのがワンポイント録音。

日本では、トリオレコードが代理店となり、当時、聴く機会の少なかったフランス音楽や宗教音楽など知的で高尚な内容とそのこだわりの録音は、当時のオーディオや音楽雑誌が盛んに持ち上げたので優秀録音の名盤としてマニアックなファンの憧れのレーベルでした。

しかし、このレーベルは長続きせず、税金の滞納が続き、ついにはオリジナルマスターなどが差し押さえられ、無知な税吏によって廃棄されてしまう。シャルランは失意のうちに1983年に病死している。そういうこともあってシャルランは、いよいよ伝説中の伝説となっているというわけです。

ところが、いざ、そのLPを実際に再生してみたマニアの評は必ずしもかんばしいものではありません。

「極端なハイ上がり」「弦楽器は薄っぺらで、軽く弱々しく、時に耳障り」「バランスが悪い」などなど。実際、私自身も、あの当時、どこかで実際に試聴してみて、その耳障りで腰高な音にすっかり興ざめしてしまい、持ち上げる評論家諸氏の弁に首をかしげた記憶がはっきり残っています。

そのシャルランのことが、マイミクのUNICORNさんとのあいだで話題になったのは、紀尾井ホール管でモーツァルトの「セレナータ・ノットゥルナ」(K239)が取り上げられたときのこと。シャルランのLPがあるからと聴かせていただくと演奏の良さもさることながら、なかなか良い音でした。もちろんアナログ再生にこだわり抜くUNICORNさんだからこそのところがありますが、それまでのシャルランのイメージとは違っているので意外でした。


先日の相互訪問で、再び、話題沸騰。さすがのLPコレクターのUNICORNさん、何枚か所有しているそうで、そのうちの何枚かを聴かせていただきました。

トリオ・レコードの国内販売盤ですが、ディスクは輸入盤でマトリックスは手書きのもの。ジャケットは、あのおなじみの茶色がかったギリシャ・レリーフ風の統一デザインです。若林俊介氏の解説リーフレットも入っています。

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まずは、フォーレのレクイエム。

同時代のクリュイタンスの名盤(EMI)と聴き較べるとかなり聴き劣りがします。

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名録音とはほど遠い。音場も左右の拡がりが乏しく高さもでません。奥行きもモノラル的で単調です。何よりも高域が混濁してしまいフォーレの音楽の透明感が出ません。

2枚目は、ヴィヴァルディ。

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A面は、バッハが4台のチェンバロ協奏曲に編曲したもので、B面はその原曲となった4つのヴァイオリンのための協奏曲。こうした取り合わせは参加アーティストが膨大になるので、企画としてまず成り立たない。それを両面に1枚のアルバムとして収録してしまうこだわりかたです。チェンバロ奏者には若きクラウディオ・アバドなど後年の大家がずらり。こういうところもシャルランの面目躍如。聴いたのはB面のヴィヴァルディの原曲のほう。

ところが音はかなり劣悪。極端なハイ上がりで音場もなく音がごちゃごちゃと整理がつきません。酷評するひとたちの言うとおりの音がします。


ここでUNICORNさんにお願いして、この2枚のディスクをお借りすることにしました。自分のシステムでも同じようになるのか確かめてみたかったのです。

すると…

驚いたことに素晴らしい立体的な拡がりで再生されたのです。上下の高さも出ますし広大な音場が現出。帯域バランスも不自然さを感じません。EQカーブもトーンコントロームもなにも弄らないのに激変しました。何よりも聴きづらかったヴィヴァルディの高域がすっきりとほぐれて解像度も現代録音に決してひけをとりません。

このことは、後日、拙宅にお出でいただいたUNICORNさんに確かめていただきました。UNICORNさんもぜんぜんイメージが違ったと驚いておられました。

さて…

あくまでも個人の憶測ですが、これはフォノEQアンプの位相精度の問題だと思います。

UNICORNさんのプリアンプは、Maranz7のレプリカ。綿密に調整されていてこの名器本来の素晴らしい音がします。そのMaranz 7のフォノ回路はNFB型になっています。

#7 Phono Amp.gif

一般的にEQ特性を持たせたフォノアンプ回路は位相回転が避けられません。EQ回路は、NFB型とCR型に大きく分けられますが、どちらにも一長一短あってアナログオーディオファンにとってはその優劣について尽きることのない論議となっています。負帰還にEQ特性を持たせて所定のEQカーブを得るというNFB型の最大の泣き所は、負帰還の位相が回転してしまい正しい負帰還がかからないということです。

私のプリアンプもNFB型ですが、設計者・金田氏は徹底的に位相にこだわり抜いています。

金田式では、回路を標準の電圧出力ではなく電流出力アンプにすることでオープンゲインでEQ特性の出力を得られるようにしています。それで同位相・同特性の正しい負帰還がかかることになり、完全にニュートラルなクローズドゲイン特性が得られます。これが、いわゆる理想型NFBイコライザー回路です。

この違いが、シャルランのワンポイント録音では顕著に出てしまったということだと思うのです。ワンポイント録音では、マイクセッティングが極めて微妙で、それこそミリ単位での詰めが必要だと言われます。難度の高い大編成の収録で、まだまだそういう楽器配置やマイクセッティングに習熟しきれていなかった比較的初期の録音では、そういう位相の問題が顕著に現れてしまうのではないかというのが私の憶測です。

再生システムの違いということが、ソフトによっては大きく出てしまうことがあります。相性といえば相性と言えるのですが、実際のところは再生の忠実度の問題であって奥が深い問題です。それを好みの違いだから口出し無用だとか、あるいは悪いのは録音のせいだとか言って、切り捨ててしまうことがいかに多いことか。

私も、システムの進化につれて、それまで録音が悪いと切り捨てていたLPやCDがいきなり変貌して、あっと驚き、ディスクに向かって、自分が間違っていました、ごめんなさいと謝ったことが何度もあります。せっかくの録音・演奏を、そうやってソフトのせいにして聴かないでしまうのはもったいないことです。あるいは、優秀録音だという巷の評に踊らされて、裸の王様になっているのはなお悲しい。

オーディオはあくまでも音楽を楽しむ手段ですが、それは同時によい音を追求することでもあります。プロの音楽家も録音エンジニアもみんな、よい音を磨くためにそれぞれの人生をかけているのですから。オーディオも同じようにその音を正しく引き出すという《よい音》の追求なんだと思っています。
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