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来てくれてありがとう! (紀尾井ホール管弦楽団定期) [コンサート]

昨年以来、コロナ禍により休演やプログラム変更が続いてきましたが、ようやく首席指揮者のライナー・ホーネックとコンサートマスターのアントン・バラホフスキーが帰ってきました。

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二人の共演は、1年半ぶりのこと。このプログラムは、昨年6月に予定されていたもののリターンマッチということになります。二人の来日に際しては関係省庁との協議を重ね、日本への入国また滞在期間中における厳重な防疫措置と行動の管理を行う条件 ― いわゆるバブル方式 ― で入国が認められたとのこと。

プログラム一曲目は、ドヴォルザークの管楽セレナード。

ドヴォルザークのセレナードといえば、弦楽セレナードを思い浮かべるのが常で、管楽器アンサンブルのこの曲を聴く機会はなかなかないと思います。チェロとコントラバスも加わった編成の生の響きは、モーツァルトの「グラン・パルティータ」よりも厚みがあって吹奏楽に近い。生の音の響きを確認する貴重な機会になりました。おそらく、ホーネック来日前に十分に仕上げられていたのでしょう、まさにそういう集中度の高い渾身の演奏でした。

二曲目は、これもまた演奏機会の希なブルックナーの弦楽五重奏曲。

これは指揮者なしの、コントラバスも加わった五部の弦楽オーケストラとして演奏されました。

トップに、ウィーン・フィルとバイエルン放送響のコンサートマスター二人が並ぶというのはまさに壮観といえます。

二人の椅子だけが、他のメンバーからちょっと離れた位置にあるというのは、つまり、バブル方式のひとつなのでしょう。この日は舞台上の配置も定常よりも相互に距離をとったり、指揮者の出入りの際にメンバーが一斉に後に下がるとか、客席も中央の前3列は空席にするとか、ここかしこに工夫があって、二人の来日にかけたスタッフの並々ならぬ対策への尽力が垣間見られます。

それだけに、このブルックナーの演奏は格別のものでした。

世界的に優秀な日本の弦楽器奏者の選りすぐりのアンサンブルといえども、これほどの演奏はないのではないかと思います。ウィーンなのかミュンヘンなのか、どこか別次元の場所へワープして聴いているのではないかと思うほどの超絶的な快演。スクロヴァチェフスキの編曲の手が入っているということもあるのかもしれませんが、ブルックナーにもこんな曲があったのだと、思わず彼を抱きしめたくなるような気持ちでうるうるしてしまいました。

休憩をはさんでの後半は、ブラームスのヴァイオリン協奏曲。

これもまた、別次元の名演でした。

私たちの耳にはどうしても20世紀に肥大化した管弦楽の音響が残っていて、ブラームスの擬古典的な響きのバランスになじまないところがありますが、本来の2管編成による引き締まったアンサンブルと各パート首席による選りすぐりの美音、それらとヴァイオリン・ソロの名人芸との対比がものの見事に発揮された至芸の世界。

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ぽつんとコンサートマスターの席がひとつだけ離れているのは、バブルのバラホフスキーが座るからなのでしょう。それはともかく、弾き振りのホーネックはアンサンブルの中央に立ち、彼のストラディヴァリウス(1725年製“シャコンヌ”)の真後ろにフルート、オーボエ、ファゴットのトップ三人が正三角形に配置される。そういう中央にくっきりと焦点が合った響きというのは希有の生演奏体験で、その効果に酔いしれました。


アンコールは、ホーネックとバラホフスキーによる、とても素敵なモーツァルトの二重奏。

それはあたかもおふたりが持ってきてくれたお土産のチョコレート菓子のよう。

その甘美な粒を頬張ると、またまた夢見心地の気分。

お二人にはほんとうにありがとうと言う言葉しかありませんでした。



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紀尾井ホール室内管弦楽団 第127回定期演奏会
2021年9月18日(土) 14:00
東京・四谷 紀尾井ホール
(2階センター 2列13番)

ライナー・ホーネック 指揮・ヴァイオリン
アントン・バラホフスキー コンサートマスター
紀尾井ホール室内管弦楽団

ドヴォルジャーク:管楽セレナード ニ短調 op.44 B.77
ブルックナー:弦楽五重奏曲ヘ長調 WAB112~アダージョ(スクロヴァチェフスキ編曲)

ブラームス:ヴァイオリン協奏曲ニ長調 op.77

(アンコール)ホーネック&バラホフスキー
モーツァルト:2つのヴァイオリン二重奏
       (ヴァイオリン・ソナタ第34番変ロ長調 K.378より A. シュルツ編)

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