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マルチでハイブリッド (Y氏邸訪問記 仙台オーディオ探訪 その1) [オーディオ]

仙台に遠征しました。
 
仙台のオーディオ仲間の皆さんが熱い。しかも、そういう皆さんのあいだで、ウェルフロートの話題が盛り上がっているとのこと。そもそもは、HarubaruさんとM1おんちゃんさんとの間で、ウェルデルタや最新のバベルの使いこなしのことでやりとりがあり、私もお誘いをいただき今回の訪問が実現しました。
 
仙台までは、東京から新幹線であっという間。皆さん、独自の取り組みをされていて、目からウロコもあるし、何よりもその熱心な取り組みと交遊が素晴らしくて、とても楽しい充実したオーディオ交流となりました。
 
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まず最初にご紹介するのは、訪問の順番とは前後しますがYさんのお宅です。
 
デジタルチャンネルデバイダを使用した4ウェイのマルチドライブシステムで、まさにオンリーワンのシステムです。ほとんどが自作で、既製品も使用されていますが何らかの手が入っているようです。
 
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まず、目につくのはスピーカー。
 
根っからのジャズファンだそうで、その中核にあるのはJBL2441ドライバとHL88。HL88は、通称「ハチの巣」。帯域は、760Hz~3.78Hzの音楽帯域のほとんどを受け持っていますので、システムのキャラクターを支配していることは間違いありません。一見、2ウェイのコンパクトスピーカー風に見えるのが、SCANSPEAKのツィターとPURIFIのミッドバスを入れたテーラーメイドの箱。
 
何よりも驚いたのは、ウーファのTAD TL-1601の低域です。軽やかで明解な低音には深みとゆとりがあり、他のユニットとも奇跡的なほどのつながりの良さで、低音楽器の自然な質感を見事に表現していてこのユニットに対する既成概念を大いに裏切っています。とにかくマニアックで個性的な見かけと違って、4つのユニットが一体となって密度の高いサウンドを聴かせてくれるのです。
 
アンプは真空管アンプが主力ですが、重いウーファーには駆動力の高い半導体アンプを投入する。良かれと思えば、デジタルであれ、半導体のハイパワーアンプであれ躊躇なく導入する。オーディオに対する確かな見解と腕力がなければできないことだと思います。
 
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実は、つい最近までは、なかなかこういう低域が出せなかったそうで、この素晴らしい低音と全体的なウェルバランスが実現したのがウェルデルタの導入だったのだそうです。
 
全体的には平行法配置ですが、ミッドのハチの巣だけは少しだけ内向きに調整されています。
 
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セッティングは、レーザーポインターで厳密に墨出ししたとのこと。私が、「え?幾何学的に合わせただけですか?」と問い質すと、「もちろん、それは出発点。その基準点はとても感覚では決められませんよ」と笑っておられます。そうなんですよね。幾何学的に合わせるのはあくまでも出発点。そこからは自分の聴感を頼りにファインチューニングしていくしかない。ハチの巣だけは水平の振り角度が調整できるようになっています。ものすごく手が込んでいて、しかも、実践的。
 
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デクスター・ゴードンのテナーなどは、まさしくJBLならではの質感。腹腔に直接響き魂を震わせるような音はまさにホーンならではのもの。ハチの巣は、けっこう珍しくて、たぶん初めての体験だと思うのですが、これは感涙もの。
 
ところが、このJBLホーンは、クラシックをかけると少しも自己主張せずに、他のユニットとしっくりと溶け込む。これもまた驚愕でした。オイストラフのベートーヴェンのロマンスでは、実にしっとりとした、しかも、オイストラフらしい太めの深い艶のあるヴァイオリンの線の描出が見事で、しかも穏やかなオーケストラのハーモニーが心地よい。
 
この盤は、ドイツグラモフォン(DG)のオリジナル盤のようですが、ジャケットをふと見るとジャケット左上に小さく鉛筆書きで「ffrr」との文字が…。「カーブは、ffrrなんですか?」と聞くと、これはRIAAではまったくダメなんだそうです。
 
Yさんは、アナログ中心に聴かれるそうですが、チャンネルデバイダはデジタル。従ってアナログであってもフォノイコライザーの段階でデジタル変換しています。そのADCも兼ねたフォノイコライザーにM2TECH JOPLINを使用されていて、イコライザーもデジタル。従って手元のリモコンでカーブを一瞬にして切り換えておられます。
 
シベリウスの「フィンランディア」。ストリングスの美しい旋律と、奥まったところからしっとりと響く木管群の音色、咆哮する金管楽器群とティンパニで高揚します。
 
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このカラヤン盤は、ステレオ初期の英国コロンビア盤。「これはカーブは何をつかわれているのですか?」と聞くと、「もちろんコロンビアカーブ」と破顔一笑。RIAAに統一された後のステレオ時代であっても、実際に聴いてみると各社それぞれで、たいがいはRIAA以外の独自カーブのほうがしっくりくるとのこと。こういうイコライザーカーブの違いは、マニアックな議論にもかかわらず、いざとなると確信も持てないしいちいちこの盤はこのカーブとちゃんと切り換えて聴いておられる人には出会ったことがありませんでしたので、思わず「う~ん」と唸ってしまいました。脱帽です。
 
アナログもネットワークのデジタル出力も、すべて、MUTECのDDCで96KHz/24bitに変換してしまいます。
 
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デジタルチャンネルデバイダは、確かに、アナログよりも機能的で位相も正確であるように思えますが、群遅延特性はなかなか解消できません。Yさんによると、そればかりではなく演算速度には帯域特性もあってむしろその弊害の方が聴感上は大きいとのこと。これもまた目からウロコ。これだけ変換、演算を繰り返すと、どうしても音の鮮度も落ちるものですが、聴いていると少しもそういうことを感じさせません。Yさんの話しを伺っていると様々な知見と独自の工夫を凝らしているようで、これほど、帯域が広く自然で、なおかつ、完成度が高く一体感のあるマルチシステムは初めてです。
 
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アート・ペッパーのミーツ・リズムセクションの《 You'd Be So Nice To Come Home To》。軽妙であって、それなのに、どこか切ないまでの哀感漂うペッパーのアルト。その音場感がとてもリアルで実在感があります。
 
このアルバムは、数限りなく版を重ね、ジャズ喫茶のオーナーが音の調整に使ったほど音が良いという神話もあって、デジタル、アナログ復刻盤までオーディオマニアにもてはやされていて、あちこちで聴く機会があります。
 
そういうなかでもYさんの再生は出色のもの。
 
「ほんとうのオリジナル盤であれば、左右泣き別れではなくてころほど自然な音場感があるんです。それは、この《STEREO》のロゴ入りのオリジナルのコンテンポラリー盤だけ。」とうれしそう。
 
確かに、いままで聴いたものは、LPであれCDであれ、左右のステレオ感が強調された、いわゆる中抜けの音がほとんど。ステレオが一般に普及する以前(1957年?)の録音ですから、むしろモノーラル盤こそオリジナルであって音も充実していると言うジャズファンも少なくない。
 
録音エンジニアのロイ・デュナンは、実のところごくありのままに録音していて、リヴァーブなどの加工はカッティングの際に行っていました。保存されたマザーテープの箱には、カッティング時の調整の詳細が彼自身のメモしたものとして残されているそうです。そのロイが自分の思い通りにカッティングしたのは、オリジナル初出盤のみ。その後は、レコード会社のプロデューサーの意向で変えられてしまうのです。特に、当時、普及し始めた一般家庭のハイファイセットでステレオ感を誇示するために、左右の分離をことさらに強調したものが広まってしまうことになるのです。厳重に保管されたマザーテープが残ったおかげで、復刻は可能なのですが、ロイ・デュナンの意図を再現するのはとても難しい。そのことが、このオリジナル盤が珍重されるゆえんとなっているというわけです。
 
「そういうお話は、それなりのジャズファンなら誰でも知っているのですか?」と聞いたら、「う~ん、知っているんじゃない?」とのお答えでした。実のところ、私はそういう話しは、今まで例外的にたったお一人の方からしか聞いたことがなかったのです。あまり知られていないディープなウンチクなのか、あるいは、営業妨害になるのであまり語られていないのか…。
 
Yさんは、オーディオ的な知識、独自の工夫やノウハウも素晴らしく豊富ですが、それがさらに音楽の知識やセンス、耳の良さに裏打ちされているのがすごい。後で、懇親会でお聞きしたら若い頃はジャズバンドでドラムスを担当されていたとのこと。なるほど。
 
この完成度の高い練達のサウンドが、ウェルデルタの導入でようやく達成できたとか、それがつい最近のことだとのお話しは、にわかには信じられません。それほどウェルデルタはすごい最後の最後の決定的なワンピースだったのでしょうか。ビフォー・アフターが聴いてみたかったですね。


タグ:訪問試聴記
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