時をかけるMezzo (湯川亜也子 メゾソプラノ) [コンサート]
新人の登竜門であるはずの紀尾井ホールの「明日への扉」が、出演時点ではすでに大活躍の旬の音楽家ということが少なくない…ということは繰り返し述べてきました。
が、これほどの大物ぶりは、もしかしたら今までなかったことかもしれません。
実は、私でさえこの湯川亜也子さんんはすでに聴いてしまっています。それは、つい先々月の読響アンサンブル・シリーズのこと。《作曲家》ピエール・ブーレーズの代表作「ル・マルトー・サン・メートル」というコンテンポラリーの超難曲のソリストとして。つい先日には、私の地元、王子・北とぴあ音楽祭でのリュリ「アルミード」にも出演されていました。気がついたら後の祭り。文字通り八面六臂の大活躍です。
プログラムは、前半がトリスタン・ラエスのピアノで二十世紀のフランス歌曲。後半は古楽アンサンブルとの共演でフランス革命以前のフランス古典の歌曲。パリから帰還してあっという間の活躍ぶりとも照応するかのような、時空間を縦横無尽にかけめぐるプログラムですが、フランス歌曲という基軸は微塵も動じない。
前半は、ほとんど初めて聴くものばかりでしたが、楽しくて楽しくて、あっという間。ルーセルは、ラヴェルやドビュッシーとほぼ同世代ですが、印象主義というよりもその後の世代のフランス新古典主義の先駆け。2曲とも海軍軍人として世界を巡ったルーセルらしい異国情緒がたっぷり。
プーランクの「画家の仕事」なんて、こんな楽しい歌曲集があったのかしらとうれしくなってしまいました。パリに集い活躍した画家たちの画風が目に浮かぶよう…。とはいえもっと歌詞が理解できていたらなと思います。とはいえ、クレーやミロなどはピアノの奏でる雰囲気に画風を思う浮かべて思わずうきうき。
そのピアノがとても素晴らしい。何というかこれぞフレンチピアニズムという透明度の高い、パリッとした明るい色彩のタッチに驚喜してしまいます。パリ地方音楽院でコレペティートル教授をつとめるなど声楽家との共演では大変なキャリアのようですが、こんな大物をパリから呼び寄せるなんてことも、ちょっとこのシリーズでは前代未聞のような気がします。
ラヴェルの《シェエラザード》は、クレスパンとアンセルメの名盤などどちらかといえばオーケストラ版が知られますが、私自身はたまたまのことですがピアノ版に耳がなじんでいます。「アジア」は、東方の異国への憧憬というのか、エキゾチシズムへの期待というのか、20世紀の世界空間の膨張という時代感覚が痛烈。これで前半が終わってしまうのは、どこか逆説的ですが、ちょっと心憎いプログラム構成です。これを聴くと、ラヴェルなどのフランス近現代を印象主義というカテゴリーに押し込めてしまうのが、何て視野が狭いことかと痛感してしまいます。
後半は、これまたなじみの薄い曲目ばかりなのですが、前半のルーツともいうべき音楽で呼応しています。バロックといっても、とても主情的な音楽であることに驚きながらとても楽しめます。音楽におけるフランス・ナショナリズムとでもいうのでしょうか、そういう近現代フランスの雰囲気を強く押し出したプレゼンテーションに、これまた湯川さんの新人ばなれした強い主張を感じさせてくれます。
共演の古楽アンサンブルがこれまた豪華で、前半に倍加して前代未聞。特にバロックチェロの懸田貴嗣さんはもはや大御所的存在で、バッハ・コレギウム・ジャパンのメンバーというだけでなく、これまでもエマ・カークビーや波多野睦美のリサイタル、あるいは吉井瑞穂&北谷直樹 デュオ・コンサートでのゲスト出演など、何度もお目にかかっています。
チェンバロの會田さん、バロックヴァイオリンの依田さんは初めてでしたが、お二人ともフランスから駆けつけたと聞いて納得です。余計なお世話ながら、お足代はいったいどうされたのかと余計な心配までしてしまいます。
プログラムも出演者も、まさに時空間を自在にかけめぐるようなリサイタルコンサートでした。
以下は、蛇足ですが…
歌詞対訳の字がちょっと小さめで、客席の照明も落としてしまっていたので、歌詞が読み取れなかったのが残念。歌曲のリサイタルでは、もっと歌詞への配慮を望む次第です。
紀尾井 明日への扉33
湯川亜也子(メゾソプラノ)
2022年12月15日(木) 19:00
東京・四ッ谷 紀尾井ホール
(1階 18列10番)
湯川亜也子(メゾソプラノ)
トリスタン・ラエス(ピアノ)
會田賢寿(チェンバロ)、依田幸司(バロック・ヴァイオリン)
懸田貴嗣(バロック・チェロ)
ルーセル:サラマンカの学生 op.20-1
:夜のジャズ op.38, L.49
プーランク:歌曲集《画家の仕事》FP.161
1. パブロ・ピカソ
2. マルク・シャガール
3. ジョルジュ・ブラック
4. フアン・グリス
5. パウル・クレー
6. ジョアン・ミロ
7. ジャック・ヴィヨン
ラヴェル:歌曲集《シェーラザード》より
第1曲「アジア」
リュリ:歌劇《アティス》より
「希望とはなんと愛しくなんと甘いことか」(シベルのアリア)
クレランボー:カンタータ《メデ》
(アンコール)
ラヴェル:歌劇「スペインの時」より
「ああ、みじめなアヴァンチュール!」
が、これほどの大物ぶりは、もしかしたら今までなかったことかもしれません。
実は、私でさえこの湯川亜也子さんんはすでに聴いてしまっています。それは、つい先々月の読響アンサンブル・シリーズのこと。《作曲家》ピエール・ブーレーズの代表作「ル・マルトー・サン・メートル」というコンテンポラリーの超難曲のソリストとして。つい先日には、私の地元、王子・北とぴあ音楽祭でのリュリ「アルミード」にも出演されていました。気がついたら後の祭り。文字通り八面六臂の大活躍です。
プログラムは、前半がトリスタン・ラエスのピアノで二十世紀のフランス歌曲。後半は古楽アンサンブルとの共演でフランス革命以前のフランス古典の歌曲。パリから帰還してあっという間の活躍ぶりとも照応するかのような、時空間を縦横無尽にかけめぐるプログラムですが、フランス歌曲という基軸は微塵も動じない。
前半は、ほとんど初めて聴くものばかりでしたが、楽しくて楽しくて、あっという間。ルーセルは、ラヴェルやドビュッシーとほぼ同世代ですが、印象主義というよりもその後の世代のフランス新古典主義の先駆け。2曲とも海軍軍人として世界を巡ったルーセルらしい異国情緒がたっぷり。
プーランクの「画家の仕事」なんて、こんな楽しい歌曲集があったのかしらとうれしくなってしまいました。パリに集い活躍した画家たちの画風が目に浮かぶよう…。とはいえもっと歌詞が理解できていたらなと思います。とはいえ、クレーやミロなどはピアノの奏でる雰囲気に画風を思う浮かべて思わずうきうき。
そのピアノがとても素晴らしい。何というかこれぞフレンチピアニズムという透明度の高い、パリッとした明るい色彩のタッチに驚喜してしまいます。パリ地方音楽院でコレペティートル教授をつとめるなど声楽家との共演では大変なキャリアのようですが、こんな大物をパリから呼び寄せるなんてことも、ちょっとこのシリーズでは前代未聞のような気がします。
ラヴェルの《シェエラザード》は、クレスパンとアンセルメの名盤などどちらかといえばオーケストラ版が知られますが、私自身はたまたまのことですがピアノ版に耳がなじんでいます。「アジア」は、東方の異国への憧憬というのか、エキゾチシズムへの期待というのか、20世紀の世界空間の膨張という時代感覚が痛烈。これで前半が終わってしまうのは、どこか逆説的ですが、ちょっと心憎いプログラム構成です。これを聴くと、ラヴェルなどのフランス近現代を印象主義というカテゴリーに押し込めてしまうのが、何て視野が狭いことかと痛感してしまいます。
後半は、これまたなじみの薄い曲目ばかりなのですが、前半のルーツともいうべき音楽で呼応しています。バロックといっても、とても主情的な音楽であることに驚きながらとても楽しめます。音楽におけるフランス・ナショナリズムとでもいうのでしょうか、そういう近現代フランスの雰囲気を強く押し出したプレゼンテーションに、これまた湯川さんの新人ばなれした強い主張を感じさせてくれます。
共演の古楽アンサンブルがこれまた豪華で、前半に倍加して前代未聞。特にバロックチェロの懸田貴嗣さんはもはや大御所的存在で、バッハ・コレギウム・ジャパンのメンバーというだけでなく、これまでもエマ・カークビーや波多野睦美のリサイタル、あるいは吉井瑞穂&北谷直樹 デュオ・コンサートでのゲスト出演など、何度もお目にかかっています。
チェンバロの會田さん、バロックヴァイオリンの依田さんは初めてでしたが、お二人ともフランスから駆けつけたと聞いて納得です。余計なお世話ながら、お足代はいったいどうされたのかと余計な心配までしてしまいます。
プログラムも出演者も、まさに時空間を自在にかけめぐるようなリサイタルコンサートでした。
以下は、蛇足ですが…
歌詞対訳の字がちょっと小さめで、客席の照明も落としてしまっていたので、歌詞が読み取れなかったのが残念。歌曲のリサイタルでは、もっと歌詞への配慮を望む次第です。
紀尾井 明日への扉33
湯川亜也子(メゾソプラノ)
2022年12月15日(木) 19:00
東京・四ッ谷 紀尾井ホール
(1階 18列10番)
湯川亜也子(メゾソプラノ)
トリスタン・ラエス(ピアノ)
會田賢寿(チェンバロ)、依田幸司(バロック・ヴァイオリン)
懸田貴嗣(バロック・チェロ)
ルーセル:サラマンカの学生 op.20-1
:夜のジャズ op.38, L.49
プーランク:歌曲集《画家の仕事》FP.161
1. パブロ・ピカソ
2. マルク・シャガール
3. ジョルジュ・ブラック
4. フアン・グリス
5. パウル・クレー
6. ジョアン・ミロ
7. ジャック・ヴィヨン
ラヴェル:歌曲集《シェーラザード》より
第1曲「アジア」
リュリ:歌劇《アティス》より
「希望とはなんと愛しくなんと甘いことか」(シベルのアリア)
クレランボー:カンタータ《メデ》
(アンコール)
ラヴェル:歌劇「スペインの時」より
「ああ、みじめなアヴァンチュール!」
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