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児玉桃 メシアン・プロジェクト2022

今年は、20世紀の大作曲家オリヴィエ・メシアンの没後30年にあたります。

メシアンの演奏といえばこの人…とも言うべき児玉桃さんが、同じく開館30周年という浜離宮朝日ホールで、3回にわけてのメシアン・プロジェクト。その3回目のアンサンブル・リサイタルに出かけました。

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何といってもメンバーがすごい。

竹澤恭子さんは、もともとはジュリアード留学のアメリカ派だけれど今はパリ在住。クラリネットの吉田さんはパリ国立高等音楽院、ジュネーブ国立高等音楽院で学んだ根っからのフランス派。横坂さんはシュトゥットガルト、フライブルクで学んだドイツ派だけど、ピエール・ブーレーズが主導したルツェルンフェスティバル・アカデミーに参加して以来、現代音楽に積極的に取り組んでいる若手。

最初は、児玉さんのソロでメシアンが在学中に作曲した前奏曲集からのごく短い1曲。その響きはドビュッシー的でとてもエキゾチック。最後の最後の燦めきが、その後のメシアンの美意識を象徴しているようでとても印象的でした。

二曲目は、ミヨーの作品。メシアンとの縁がとても深いそうで、メシアンの才能を最初に見いだしたのがミヨーなのだそうです。とても多作なのに必ずしも一般的には耳に馴染みのない作曲家。決して無調ではないけど多調・復調の奇抜な和声と複雑なリズムで、生真面目なとっつきにくさがあるようで聴いてみると俗っぽい遊びも魅力。クラリネットが参加したこの三重奏もそういう喜遊にあふれて、もう一度聴きたいと思わせる楽しい曲でした。

三曲目は、ショスタコーヴィチのピアノトリオ。

よく同じ追悼の音楽としてラフマニノフのピアノトリオと組み合わされたり、今日のようにメシアンの「世の終わりのための四重奏曲」とカップリングされることが多いのでCDで聴く機会が多かったが、生演奏は初めて。メシアンと同世代の作曲家で、その共通点は、戦争、そして、祈り。

第一楽章は、ヴァイオリンとチェロの声部交換。のっけからチェロのフラジオレットで始まりヴァイオリンはそのチェロより低い音で応答する。その逆転を目の当たりにすることができるのが視覚も加わる生演奏の魅力。とにかく横坂さんのチェロに凄みがある。それ以降の楽章はいずれも躍動的、活動的で一見して追悼には思えないけれど、そこには様々な深謀が潜んでいて、戦争や暴力、死への思いが隠されている。最後の楽章はユダヤ的な俗性がむき出しで、そこにはホロコーストへの痛切な批判が込められているのだとか。そういえば二曲目のミヨーもユダヤ系の人でした。

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休憩をはさんでの後半はいよいよメインテーマの「世の終わりのための四重奏曲」。

メシアンの初期の代表作として有名ですが、これまでなかなか実際に聴く機会がなかった曲です。これはもうメシアンのエッセンスがてんこ盛り。音楽語法も楽器奏法も、楽器の取り合わせも実に自由で多彩。作曲家にして神学者であり、また鳥類学者でもあったメシアンの深い信仰と自然に対する愛着、それらへの限りない感受性がみなぎっている。これが捕虜収容所という極限に近い状況のなかで作曲されたということが信じられないくらい。

特に吉田さんのソロによる「鳥たちの深淵」が凄すぎた。あれは滅多に聴ける演奏ではないと思えたほど。他の奏者が膝に手を置き待つなかで、吉田さんが楽器を構えて吹き出すまでの緊張感に聴く立場のこちらも思わず身構えてしまいます。

メシアンを中心に二十世紀の音楽ばかり。その中心にありながら今まであまり日本の聴衆の前には降りたってこなかったフランス現代の魅力。ヴァイオリンの竹澤恭子さんが、そういう難曲ばかりのプログラムなのに、終始、穏やかな笑みを浮かべていたのが印象的。児玉桃さんと一緒に難曲に挑戦することを心から楽しんでいるような笑顔がとても素敵。

素晴らしいプロジェクトでした。


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【メシアン没後30周年/浜離宮朝日ホール開館30周年】
児玉桃メシアン・プロジェクト2022 Vol.3
「児玉桃とヴィルトゥオーゾたち」
2022年12月10日(日) 14:00
東京・築地 浜離宮朝日ホール
(1階10列10番)

児玉桃(ピアノ)
竹澤恭子(ヴァイオリン)
横坂源(チェロ)
吉田誠(クラリネット)

オリヴィエ・メシアン:8つの前奏曲集より第1曲「鳩」
ダリウス・ミヨー:ヴァイオリンとクラリネットとピアノのための組曲 Op.157b
ドミートリー・ショスタコーヴィチ:ピアノ三重奏曲第2番 ホ短調 Op.67

オリヴィエ・メシアン:世の終わりのための四重奏曲
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