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「日本インテリジェンス史」(小谷 賢 著)読了 [読書]

「『米国の下請け』からの変遷」と、いささか刺激的なコピーの短評もあるが、戦後の日本の国策にかかわる情報収集や防諜機関の組織変遷をたどった書。

《インテリジェンス》というと、すぐにスパイだとか陰謀、工作といった映画や小説の世界を思い描きがち。あるいは思想弾圧や学生運動や過激派取り締まりなどの陰湿な警察公安も連想するのかもしれない。いずれも、当たらずとも遠からずといったところかもしれない。

日本のインテリジェンスは、敗戦とともに解体された。戦前は、陸海軍、内務公安、外務とひどく縦割りで横の連携がまったく無かったという。戦後の生き残り方も各々にばらばらで、そのことが長く日本の国策の課題となった。占領期にまず引き継がれたのは一部の軍人たちだったがすぐに内部抗争で潰れる。外務は、戦前・戦中に軍に席巻され壟断されて海外公館の活動が壊滅し戦後も著しく萎縮した。比較的、復興が早かったのが公安で警察官僚が戦後日本のインテリジェンスを主導した。冷戦の影響下で共産党や左翼思想運動の監視が主力、防諜面は脆弱。だから日本がスパイ天国と揶揄されたのは周知の通り。いずれにせよ、『米国の下請け』の性格が強く、米国に依存し独立性はほぼ皆無だったということが本書を読むとよくわかる。

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記憶に残っているのは、「大韓航空機撃墜事件」。

個人的に米国のサマーキャンプで知り合った友人が乗り合わせて命を落としたので、その記憶は生々しい。あの時に、自衛隊の無線傍受が決め手になった。それを米国がつきつけたことでソ連はシラを切り通すことができなかった。“自衛隊の傍受能力、スゲー!”みたいに誇らしくも思ったが、一方で、こっちの手の内を明かせばこっちも危うくなるという安全保障のイロハはシロウトのすっとこどっこいでもわかるので、ちょっとヘンな気分だったことも覚えている。

米国がすかさず「撃墜」と断定し、国連安保理で傍受音声に英語とロシア語のテロップまでつけて各国代表にぶちまけたのは撃墜の5日後。その時点で日本政府の内部はろくに情報共有もできず右往左往、中曽根首相と後藤田官房長官の勇断とはされているが、米国への内通は内閣府の判断で、もちろん、米国が安保理で発表することは外交の頭越しだったという。まさに日本の自衛隊レーダー基地は米軍に直結していて、『下請け』そのものだったというわけだ。


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金大中事件も、記憶に生々しい。

東京のど真ん中で白昼堂々、韓国の諜報機関員に拉致誘拐されて韓国に連れ去られるという前代未聞の大失態。誘拐犯の人物まで特定できても、日本政府内部はバタバタでほとんど何もできず、国の安全保障、国民や住民の安全もなにもかもがいざとなれば少しも守られないという実態をさらけだした。この国は、政府高官や自衛隊幹部を籠絡したスパイを取り逃がす《スパイ天国》どころか、スパイが自由勝手のし放題という無法地帯だったわけだ。そうした内情を本書はつぶさに描いている。

「情報が回らない、上がらない、漏れる」。そういう日本のインテリジェンスはどうあるべきか、という硬派の書であり、内容はかなりマニアック。けれども、いまだに記憶が生々しいそうした同時代体験の裏舞台を見るようで、読み始めるとなかなか途中でやめられない。そこが本書の面白さ。


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日本インテリジェンス史
  旧日本軍から公安、内調、NSCまで
小谷 賢 (著)
中公新書2710 (2022年8月25日 新刊)
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