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日下紗矢子リーダーによる室内合奏団 (読響アンサンブルシリーズ) [コンサート]

読響のメンバーによる室内楽プロジェクト。いろいろなリーダーの下で様々な編成での企画のアンサンブルシリーズです。

企画そのものにもちろん各リーダーのアイデアが盛り込まれるだけでなく、普段は指揮者のキャラクターに隠れがちなリーダーの統率の個性が浮かび上がってくるところもあります。

今回は、日下紗矢子さんの個性が存分に発揮されました。

日下さんはほっそりとしなやかな姿態のヴァイオリニスト――その暖かな笑顔にもかかわらず、その音楽は、けっこう強面。そのリーダーシップから引き出される引き締まったアンサンブルは峻厳にして直截。そのことは、ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団の第一コンサートマスターとしてエッシェンバッハの絶大な信頼を得ていることからもわかりますし、リーダーを務める同楽団メンバーによる室内管弦楽団の演奏からも感じ取れます。

ハイドンの若い交響曲で始まり、間に二十世紀の弦楽合奏曲をはさんで、ハイドン中期の交響曲で締めるというプログラム。ハイドンの選曲もさることながら、その間に入る弦楽アンサンブルの選曲もいかにも日下さんらしい。

ハイドンの記念すべき交響曲第一作。20代半ばの若きハイドンの瑞々しい感性とともに、その彼がまず規範としたイタリア的な輝かしい陽光溢れる音楽になっています。ナチュラルホルンなどの管楽器の音色の純朴さが、弦楽器だけの第二楽章の色艶とのコントラストから浮かび上がらせているところも、日下さんらしい。

プログラムの核心は、やはり、二曲目のヤナーチェク。

もともとは弦楽四重奏曲の名曲ですが、先日、紀尾井ホールで聴いたリチャード・トネッティの編曲版。トルストイのドロドロの不倫小説をそのままに音楽化したもので、クァルテットで聴いても、痛切かつ懊悩と破局へと連なる緊張みなぎるテンションの高い音楽で、これを6-4-4-3-2の大きめの弦楽五部で演奏されるので相当に手強い音楽です。プレトークで司会者が、「スル・ポンティチェロの奇怪な音もアンサンブルでやるときれいになるますね」と口を滑らせると、日下さんは「そうですか?じゃあ、本番ではもっともっと汚い音になるように全力でやりましょう」と斬り返されタジタジ(笑)。

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後半のシュレーカーは、日下さんのお好みの作曲家だそうです。

シェーンベルクの「グレの歌」などの初演も行った人でワイマール時代にはR.シュトラウスに次いで人気のあった現役オペラ作曲家で、ベルリン高等音楽学校の校長にまでなった音楽家。ユダヤの血もひいていたことからナチにその地位を追われ、直後に脳梗塞で倒れたことで戦争を生きながらえることがかないませんでした。そのせいでなかなかメジャーとして取り上げられませんが、もしかしたらこれからぐんぐんと知られるようになるかもしれない――聴いてみるとなかなかの曲でした。

最後のハイドンも、いかにも日下さんらしい選曲。

エステルハージ宮廷楽長の地位の束縛を脱しようとしていた時期。「イギリス交響曲」と「パリ交響曲」の狭間で無名のために取り上げられることが少ないのですが、開かれた市民社会へと向き合い始めた自由さが充溢。最後の楽章のシンコペーションの心地よいグルーヴ感がその証しです。

アンサンブルは、短期間で仕上げた粗さも感じましたが、ある意味では日下さんらしいリーダーシップのクリスプな味わいと、読響の名手たちによる早生のフレッシュ感が逆にとてもすがすがしく感じられました。



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読響アンサンブル・シリーズ
第38回 《日下紗矢子リーダーによる室内合奏団》
2023年7月28日(金) 19:30~
トッパンホール
(M列 14番)

ヴァイオリン/リーダー=日下紗矢子(読響特別客演コンサートマスター)
 岸本萌乃加(次席)荒川以津美、井上雅美、
 大澤理菜子、小形響、鎌田成光、武田桃子、寺井馨、山田耕司
ヴィオラ=三浦克之、長岡晶子、長倉寛、森口恭子
チェロ=遠藤真理(読響ソロ・チェロ)、木村隆哉、室野良史
コントラバス=石川滋(読響ソロ・コントラバス)、小金丸章斗
フルート=佐藤友美
オーボエ=山本楓、多田敦美(客演)
ファゴット=吉田将(読響首席)、岩佐雅美 
ホルン=松坂隼(読響隼)、伴野涼介


ハイドン:交響曲第1番 ニ長調
ヤナーチェク:弦楽四重奏曲第1番「クロイツェル・ソナタ」(弦楽合奏版)

シュレーカー:弦楽オーケストラのためのスケルツォ
ハイドン:交響曲第80番 二短調
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