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「亡霊の地」(陳 思宏 著)読了 [読書]

著者の陳思宏は、台湾でいま最も注目される若手作家。

著者自身が生まれ育った永靖郷を舞台とした大家族の物語。主人公・陳天宏は陳家の末っ子で、五人の姉とその末に生まれた兄弟。著者も9人姉弟の末っ子で、ベルリン在住、同性愛者であることを告知しているから、自伝小説ではないとしても自分の故郷と自分の生い立ちをモデルとしていることは間違いない。

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同性愛者として故郷を追われ、台北で作家として成功するも、そうした抑圧を逃れるためにベルリンで暮らす。そこで出会ったパートナーとの暮らしは貧しく、糊口を凌ぐためにネオナチに参加したパートナーとの間が次第に捻れていき、彼を殺してしまう。刑期を終え、生まれ育った永靖に十数年ぶりに帰郷する。折しも死者の亡霊を祀る中元節。弟が戻ってきたとの知らせに陳家の姉たちが集まってくる。

物語は、天宏の母親、五人の姉、兄、そして今は亡き父親の幽霊のそれぞれが、今現在と過去の記憶とをない交ぜながら語られていく。

視点の主体と時制とが交錯しながら読み進むのは、まるでフォークナーを読むようで難渋する。しかも、80年代の台湾の片田舎の狭い地域社会と大家族のなかでの確執、社会の後進性、密接な人間関係だからこその激烈で理不尽な暴力や暴言、虐待は、息苦しいほどに重い。

だから、なかなか読み進むことができない。

まるで、それはジグソーパズルの小さなピースをはめていく作業に似ている。

現時点という、薄い映像が映し出される台紙の上に、主体も時制も雑多な細かなピースを乗せていく。その作業は、最初はあまりに漠然としていてしかもそれぞれの断片が余りに重く醜悪なので難渋する。

ところが、ピースが少しずつつながり、全体の映像が確かなものとなって徐々に立ち現れてくる。最後には、謎解きがかなったようなカタルシスが訪れる。それは、家族や故郷との何とも言い難い和解ともいうべき終結だ。

最後の最後の失われていたピースがぴたりとはまったその瞬間の衝撃、は言い知れぬほどに大きい。


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亡霊の地
陳 思宏(Kevin Chen)
三須 祐介 (翻訳)
早川書房
2023年5月23日 新刊

英訳
鬼地方(GHOST TOWN)
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