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クァルテット・ベルリン=トウキョウ [コンサート]

サルビアホールでのクァルテット体験。クァルテット・ベルリン=トウキョウは、初めて聴きました。

とても正統的な演奏スタイルと音色。柔らかで厚みがあり、音色がそろっている。互い互いのパートがよく融和し、コントラストもしっとりと浮かび上がる。とてもシンフォニック。

最初のハイドンは、そういう真っ当さにちょっと退屈した。すでに古楽奏法的なアプローチの方にこちらの耳が染まってしまっているのか、あるいは少し時代がさかのぼっての線描的な清潔な古典美のよき記憶があるせいなのかな。どうしても、ハイドンの四重奏には、法隆寺の壁画のような古典的な簡素な階調の美を思い浮かべてしまう。このクァルテットは、音が厚く大きい。「大きい」というのは、音量のこともあるが、音や響きの感触の大きさのことがある。こういう言い方はしたくないが、音のテクスチャに繊細さが欠ける。そうなるとハイドンはとてもつまらなくなる。

二曲目のエルヴィン・シュルホフは、ユダヤ系のチェコ人。1942年の強制収容所で命を落とした。先日聴いたばかりのトネッティ/ACOのパヴェル・ハースと重なる。

これは面白かった。こういうレパートリーはやはり若いクァルテットのもの。素晴らしい技巧とアンサンブルの妙味を聴かせてくれた。どうしても聴いたばかりのハースと較べてしまうが、あちらは弦楽オーケストラ編曲版だったせいか四重奏よりもずっと複雑な響きでアンサンブルの力が際立っていたけど、シュルホフは、大胆な個人技が冴える。5曲がそれぞれに違うスタイルで躍動するところには、共通したコスモポリタニズムを感じさせる。二十世紀前半に芽吹いた、そういう多様性や共存への理想は、戦争でことごとく根絶やしにされたということでしょうか。考え深いものがあります。

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休憩をはさんでのベートーヴェン。

これは素晴らしかった。このクァルテットの持つシンフォニックな厚みと、ソリスティックな美意識が自由で瑞々しい。それでいて古典的な構造美と心理的なドラマが鮮やか。

この第12番は、四重奏曲としては中期の作品に位置づけられるが、この時すでに第9交響曲も荘厳ミサ曲も書き上げていた。第2楽章の長大な変奏曲は、明らかに後期の弦楽四重奏曲の創造力そのもの。楽章構成が古典的な4楽章形式だというだけであって、この曲に続いて怒濤のようにあの深遠な四重奏曲の傑作が生まれていくのです。

そういう、中期後期のくくり方の狭間に落ちたせいか、なぜか演奏される機会が少ない曲。それで聴く方にとっても手強い曲になってしまうのですが、クァルテット・ベルリン=トウキョウの演奏はとても充実したもので、しかも、とても雄弁でわかりやすかったのです。二つの国際都市の名を冠した若手による中欧音楽正統の演奏スタイルのベートーヴェンということで、とても新鮮に感じました。



Quartet Berlin=Tokyo.jpg

サルビアホール クァルテット・シリーズ 166
クァルテット・ベルリン=トウキョウ
2023年10月20日(金)19:00
(C列3番)

ハイドン:弦楽四重奏曲第53番ニ長調作品64-5「ひばり」
シュルホフ:弦楽四重奏のための5つの小品

ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第12番変ホ長調作品127

(アンコール)
エルガー:愛の挨拶

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