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20年目の折り返し (田部京子ピアノ・リサイタル) [コンサート]

リサイタル・シリーズの20周年記念。6月に続く パートⅡ。

20年前の第1回、「シューベルト・チクルス」初回は、2003年11月19日――シューベルトの命日だったそうです。そのシューベルト・チクルス以来のオール・シューベルト・プログラム。しかも晩年の大傑作ソナタ2曲を続けて弾くというずっしりとした構えのプログラムです。

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使用したピアノは、前回と同じベーゼンドルファーModel275。

ベーゼンドルファーというと豊かな響きというイメージですが、田部さんは低音がとても明瞭で濁らない。この日の曲はいずれもfやffのユニゾンや和音で決然と始まりますが、その吹き上がるような強音がとても美しい。自由で自在な音色コントロールや、柔らかな暖かみと瞬間瞬間の上昇感と火華の仄めきは、まさに田部さんのもので同じなのですが、今回はもっと粒立ちを際立たせるような美しく切ないようなノンレガートのフレージングが際立ちました。

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そういう田部さんのタッチやフレージングは、折り目がきりっと正しく美しい折り紙を思わせます。音楽はもともと抽象的で象徴的なものですが、田部さんの音楽はとてもわかりやすい。それは抽象であっても表徴性が明解な折り紙の鶴のような美しさと明解なメッセージ性に通じるものがあるような気がしてなりません。

1曲目は、比較的短い小曲を置くのが常道。遅刻者の入場への田部さん配慮ですが、そこにプログラムの重要な起点となるような曲を選ぶのが、これまた田部さんの感性なのだと思います。即興曲は、4曲まとめられて弾かれるか、アンコールで取り上げられるかで、この第1番が1曲だけ取り上げられるのは珍しいと思います。ハ短調は、プログラム二曲目と同じで、ベートーヴェンの調性。シューベルトにしては短い主題が、どんどんと色調や響き、調性を変えて変奏されていく。主題は歌というよりもそのリズムが動機というのに近い。そこもとてもベートーヴェン的。そういうことが、スタッカートとスラーで括られるメッツォ・スタッカートのフレージングで徹底的に印象づけられました。

もとよりD958のハ短調のソナタは、ベートーヴェンへのオマージュだと語られてきた作品です。ハ短調の雄渾な主題とそのめくるめく展開の第1楽章、旋律的なアダージョ楽章、トリオの登場で場面が一変するようなメヌエット楽章、舞踏的な終楽章と、どれもがベートーヴェンへの畏敬の念に溢れています。それでいてシューベルトらしい不思議らしさもいっぱい。その不思議さを田部さんは見事なタッチとフレージングで印象づけてくれます。

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後半のD959のイ長調のソナタも、本当に見事。磨き上げたタッチの多彩なパレットを、的確かつ精確な配置と息づかいで駆使していくピアニズムは、田部さんの新境地だと強く感じさせます。第2楽章の哀切と寂寞の世界と、そこに突然のように噴出する激情も、劇的でありながら本当に艶やかで輝かしく純化された結晶のような美しさがあって絶品でした。

この半年だけでも徹底した探求を続けておられたのでしょう。新しい何かを掌中にしたと確かに感じさせる田部さん。来年の、このリサイタル・シリーズのテーマは、「―SHINKA― <進化X深化X新化>」だそうです。新たな展開に胸が躍ります。




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CDデビュー30周年×浜離宮リサイタル・シリーズ20周年記念 Part Ⅱ
田部京子ピアノ・リサイタル

2023年12月3日(日) 14:00
東京・築地 浜離宮朝日ホール
(1階10列12番)

田部京子(ピアノ)
 使用ピアノ:ベーゼンドルファーModel275

シューベルト :即興曲 op.90-1 ハ短調
シューベルト :ピアノソナタ第19番ハ短調 D958

シューベルト :ピアノソナタ第20番イ長調 D959

(アンコール)
シューベルト :即興曲 op.90-3 変ト長調
シューベルト :楽興の時 第3番 ヘ短調
シューベルト(田部京子/吉松隆編曲) :アヴェ・マリア
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