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異相と複層と輻輳の音楽(読響・第633回定期) [コンサート]

天晴れというしかない。快演。

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リゲティの生誕100年を記念してのピアノ協奏曲をエマールが弾くというので、矢も楯もたまらず駆けつけたサントリーホール。

リゲティを取り上げた在京オケが都響と読響だけというのは、そもそも何ともはやというところだけど、こちらも都響のコパチンスカヤにも負けず劣らずというほどの快演でした。

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プログラム構成も実に見事。

リゲティとルトスワスキにヤナーチェクを挟み込むということが、とにかく絶妙。エマールもアンコールでのスピーチでそのことに言及していましたが、その層状のプログラムでまるでミルフィーユのような味わいの相乗効果があります。

そもそもリゲティの音楽がそういう位相の異なる音楽を層状に重ねるもの。リゲティやルトスワスキは多楽章ですが、ヤナーチェクは短めの単楽章の音楽ですが、この独特の素朴で言語的な音楽がサンドウィッチされることで、多層的な音楽がうまく分離隔離されて気持ちよく味わえる。

とはいっても、ヤナーチェクの〈ヴァイオリン弾きの子供〉も多層的な楽曲です。バラードと題するこの曲は、言ってみればヤナーチェクの〈魔王〉。赤ん坊をあの世へと誘うのは、ヴァイオリンに取り憑いた亡き父親の魂。ヴァイオリン役の日下紗矢子さんと、病気の赤ん坊役のオーボエ荒木奏美さんが精妙に美音を奏でていました。荒木さんは新入団でこれが御目見得とのこと。これに貧しい村人たちをヴィオラの分割で奏したり、チェロとコントラバスが村の顔役といった見分け、聞き分けで演奏されるので、さながら小さな管弦楽のための協奏曲。

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リゲティの協奏曲も、もちろん生演奏で聴くのは初めてですが、こうやって聴いてみると視覚も手伝ってか、複リズムや複旋法、繰り返しのパターンなどが立体的に透けて浮かびあがってきて、その輻輳するズレが独特の感触的な快感を聴く側にもたらしてくれます。前衛といいながらも、エリート臭さや難解さをまったく感じさせない。それどころか、むしろ俗っぽいと言ってよいほどのサービス精神が横溢するリゲティの世界が満艦飾のように眼前に拡がって実に楽しい。このオモシロ感覚は、Eテレの名番組「ピタゴラスイッチ」に通じるのかも知れません。

読響のメンバーの個々の快演にも大喝采。

第2楽章でピッコロの低域がきれいに発音できなかったのは残念でしたが、そんな細かいことはともかく木管陣の妙技は各所に発揮。一人ひとりの緊張は想像に余りあるのですが、どこかそれを楽しんでいるようなところが観ていて楽しい。八面六臂の大活躍だったのが、パーカッション陣。中心に陣取った西久保友広さんはシロフォンを前に両手にマレット、口にはホイッスルをくわえての大熱演。クロマチックハーモニカまで吹きこなすのはさながらチンドン屋。ムチやカスタネット、ポリスホイッスルなど鳴り物が大好きなリゲティの面目躍如で、曲が終わったときに、皆でハイタッチでもやりかねないパーカッション陣のドヤ顔は実に愉快でした。

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休憩をはさんでの後半は、ここでまたヤナーチェク。

序曲〈嫉妬〉というのは、当初、歌劇〈イェヌーファ〉の序曲として作曲されたそうです。個人的な憶測ですが、おそらく歌劇の作曲を進めていくうえで、台本の深奥から単なる男女の愛憎だけでなく、現代に通ずる社会差別やジェンダーなどの社会性までもが見えてきて、この序曲はふさわしくないと考えたのではないでしょうか。1曲目の〈ヴァイオリン弾きの子供〉を合わせると、ヤナーチェクの個人的な愛憎という私的なそれを取り巻く社会という音楽的な視点がよくわかるような気がします。

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この単純明快な単発が、ある種の口直しとなって、メインとなるルトスワフスキの〈管弦楽のための協奏曲〉の世界へと突入していきます。

この曲も、リゲティと同じようにポリフォニックでポリリズムの世界で、しかも、それは20世紀の前衛が開拓してきた素数的な変拍子の組み合わせや、民謡や古楽的な旋法を複数組み合わせ、原色的な音色を輻輳させていく音楽となっています。大オーケストラの、各個人の個人技の高さとアンサンブル技術がなければ成立し得ない高度にヴィルトゥオーゾ・オーケストラの世界。

その集大成が、最終楽章。コントラバスのピッチカートとハープの超低音で開始されるパッサカリア。繰り返しのパターンで基層を成す上にあらゆる楽器が層状に変奏を積み重ねていくのは、まさに壮大なオーケストラのミルフィーユ。一転して力強く躍動的なトッカータへと変じ、やがてコラールが始まる。新ウィーン楽派など二十世紀前衛のバッハ回帰をも思わせる展開ですが、そのエネルギーが集合高揚しての大団円は実に爽快なフィナーレでした。

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個人的にはカンブルランは初体験。

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指揮ぶりは実に組織だったものでそのリーダーシップは明快にして力強いものを感じます。楽員に迷いを生じさせない。特に最後のルトスワスキなどは、音色も明快で淀みがない――鮮度の高い色彩とシャープな触感を読響から見事に引き出していました。メジャーレーベルが取り上げないので知名度はあまり高くないようですが、こんなすごい指揮者がいたんだと改めて感服させられました。






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読売日本交響楽団
第633回定期演奏会
2023年12月5日 19:00
東京・赤坂 サントリーホール
(2階 LB2列 1番)

シルヴァン・カンブルラン(指揮)
ピエール=ロラン・エマール(ピアノン)
日下紗矢子(コンサートマスター)

ヤナーチェク:バラード〈ヴァイオリン弾きの子供〉
リゲティ:ピアノ協奏曲
(アンコール/ピアノ独奏)
 リゲティ:ムジカ・リチェルカータから第7曲、第8曲

ヤナーチェク:序曲〈嫉妬〉
ルトスワフスキ:管弦楽のための協奏曲

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