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「日本のクラシック音楽は歪んでいる」(森本 恭正 著)読了 [読書]

日本の西洋音楽受容を一刀両断。日本のクラシック音楽ファンをすべて敵に回すような論調は、SNSで言うところの「釣り」手法、あるいは「炎上」商法とでも言うべきでしょうか。

そういう私も、ネットで話題になっているのを見て、まんまと釣り上げられて手にしてみたクチ。ただし、この著者には、10年前に同じ光文社新書で「西洋音楽論」という良著があって、作曲家・指揮者としてヨーロッパで活動してきた自身が西洋音楽の本質に覚醒していく経験を率直に語っていて、優れて啓蒙的なものでした。

というわけで、まずは著者の言い分を勝手に要約してみると次のようなものだと受け止めました。

批判1 戦前・戦後を通じて権威的存在だった井口基成が技術主義の元凶

批判2 明治の音楽教育は、本質を欠いた表面的な西洋音楽移植による機械論

批判3 明治政府の西洋音楽導入は、伝統邦楽の否定と軍事教育

批判4 日本人はダウンビート体質 アップビートを理解しない

批判5 西洋音楽は暴力的で平和志向の邦楽と相容れない

批判6 西洋音楽は階級社会的で資本主義・拡大主義

批判7 吉田秀和は、戦中内務省検閲に関わった権威主義者

批判8 楽譜に表記されていない音楽を再現発想する素養の欠如

批判9 日本人はフレージングが不得手(歌えない)

批判10 日本人の演奏は四角四面でスウィングがない

批判11 日本人は絶対音感偏重で相対音感が身についていない

批判12 コピーや既存知識ベースを組み合わせた最適解では創造はできない


多くは、かなり以前から言い古されてきたこと。著者自身、前著の使い回しというところもある。21世紀の現代、世界的に活躍する日本人作曲家、演奏家も多い。日本的な音楽伝統や美意識についての理解や共感も高まってきていて、日本文化に対する異国趣味一辺倒の好奇趣味的な視線はもはやほとんどない。それは決して著者の言うような西洋音楽(文化)の侵略支配とはいえないとも思います。その意味でも、著者の偽悪的な口調は、いささか時代錯誤なのではないでしょうか。

とはいえ、的確な指摘は多々ある。書きようによっては、クラシック音楽入門あるいは再入門として面白く読めるところも豊富にあったはず。学術的なささいな間違いで揚げ足をとられたり、吉田秀和批判などに拒否感を抱かれてしまうのは、編集部のそそのかしに安易にのってしまった著者の不徳の致すところというべきなのかもしれません。

もったいない。




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日本のクラシック音楽は歪んでいる
12の批判的考察
森本 恭正 (著)
光文社新書
タグ:森本 恭正
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