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アンデルシェフスキ再臨 (紀尾井ホール室内管・定期演奏会) [コンサート]

まさに魔術師。

まず、そのプログラムのトリッキーなこと。自身が指揮振りする協奏曲二曲と管弦楽曲との組み合わせですが、そちらは指揮なし。実は、そういう構成は、初登場の前回とまったく同じなのですが、今回もすっかり欺されました。

その二曲に、祖国ポーランドのルトスワフスキをきっちりと忍び込ませることも、前回に同じ。ネタばれのはずなのに、そのたびにやられたぁと喜ばされてしまいます。しかも、今回は、一曲目はグノーの木管楽器だけの「小交響曲」、二曲目は弦楽だけのルトスワフスキと、赤白をはっきりさせて鮮やか。楽員たちだってやり甲斐があって嬉しかったに違いありません。

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グノーは、実にシンプルで洗練の極み。1本だけのフルートがソリスティックに際立ちますが、各楽章の開始は全て他の楽器。そのアンサンブルの響きと音色は実にバランスが取れたもの。指揮者無しでいったい誰がリーダーシップを取っているのだろうということがマジックみたいな絶妙なアンサンブル。まさに“キオイ9”とでも呼びたいような、9人組の親密なアンサンブルに目が醒める思い。

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休憩後一曲目のルトスワフスキも、このオールスター・ストリングスならではの美学の世界。2分割、3分割、ソロとトゥッティと複雑精妙なアンサンブルも、キレのよいリズムも、そして蠱惑的な弦の旋律美など、その巧妙極まりない仕掛けを存分に楽しませてくれます。初体験でしたがすっかり魅了されました。

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さて、アンデルシェフスキの指揮振り。

ステージにはなぜか2台のピアノ。何とモーツァルトとベートーヴェンとで2台の楽器を弾き分けます。

実は、このピアノはいずれも紀尾井ホール備付けのスタインウェイ。アンデルシェフスキはリハーサルで、突然、どちらも弾きたいと言い出してスタッフを面食らわせたそうです。

そのモーツァルトは、繊細の極み。

2本のクラリネットが活躍する第一楽章は、木質の音色が包み込むなかで、ピアノとの絡み合いが実に優雅。いきなりピアノ独奏で始まるアダージョ楽章は、ため息のような息の長い木管の響きにのって、ピアノの転がりこぼれるような細やかな音符は、メランコリックな叙情に満ちています。極小にまで音量を低めたピアノの細い典雅な音色はまるでフォルテピアノを聴いている気分。使用したピアノは、開館以来の一番古い楽器だそうで、その古雅な味わいにとても納得。

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一方、後半のベートーヴェンは、若々しく躍動的。

ppで開始され、それがもう一度、いきなりffで繰り返される。とにもかくにも強弱のコントラスト、強いアクセントが、まさにベートーヴェン。そのテーマが、そもそも二つの対照的な音型のモチーフに二分されている。ここからまるで市松模様のような鮮やかなコントラストによる目眩くような音楽が活き活きと展開していく。モーツァルトとは、明らかに弦楽器の奏法が違っていると聞こえます。典雅さと若々しい粗野との対比。ピリオド奏法を精妙に使い分けるアンサンブルが見事。玉井菜採さんがコンサートマスターに座ると、オーケストラの隅々まで意図が行き渡り、アンサンブルが楽しい。アンデルシェフスキさんとの相性もぴったり。このベートーヴェンは、まるで初めて聴く曲であるかのように新鮮。

若鮎のようにピチピチとしていて、透明な輝かしさの音色は、確かに前半のモーツァルトとは楽器の個性の違いを感じます。こちらは、2019年に導入した新しいスタインウェイなのだそうです。ホール備付けの楽器にそれだけの個性の違いがあるとは思いもよりませんでしたが、その微妙な違いを聞き分け、それぞれの個性を弾き分け際立たせるアンデルシェフスキはまさにマジシャン。

アンコールにもびっくりですが、それがハイドンであることも、実は、前回と同じ。ネタばれマジックの楽しさ極まれり。次も楽しみになりました。また、来てほしい。




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紀尾井ホール室内管弦楽団
第138定期演奏会
2024年4月20日(金)19:00
東京・四ッ谷 紀尾井ホール
(2階C席3列13番)

指揮&ピアノ:ピョートル・アンデルシェフスキ

紀尾井ホール室内管弦楽団
コンサートマスター:玉井 菜採

グノー:小交響曲変ロ長調
モーツァルト:ピアノ協奏曲第23番イ長調 K.488

ルトスワフスキ:弦楽のための序曲
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番ハ長調 op.15

(アンコール)
ハイドン:ピアノ協奏曲ニ長調Hob.XVⅢ:11より第2楽章

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