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デジタルなのになぜ音が変わるのか?(大槻 英樹 著)読了 [読書]

ファイルオーディオに焦点をしぼって、知っておいたほうがよいデジタルプロセスの基本を丁寧に解き明かしてくれています。

表題からすると「デジタルでも音が変わる」という主張が前提のように見えますが、著者が前提とするのは、むしろ「デジタル領域では音が変わらない」(ビットパーフェクト)ということ。

おお、やっぱり「変わる」のかと思って読むと、ちょっと肩すかしのところがあります。「変わらない」はずだと思っている人が読むと、理屈以上のことは何も書いていないじゃないかということになるかもしれません。新しい機器を購入する直接のきっかけになるというわけでもなく、また、ケーブルを換えるとかアクセサリやセッティングの工夫のティップス集ということでもありません。

例えば、しばしば、音が変わる要因としてあげられる”ジッター”について、その誤差は許容範囲内であって、聴感に影響するような波形変形はないと結論づけています。また、アシンクロナス転送であれば、たとえジッターがあってもそれが伝播することはないとも言っています。逆に言えば、アナログ変換に依存するのはDACチップに直接入力されるマスタークロックの原振動であって、これをそのまま使えるのがアシンクロナス転送だと言うわけです。なぜ、そうなのか、そして、それを可能にするインターフェース(代表はUSBアシンクロナスモード)は何があるのか、ということを解説しています。

かといって「デジタルでは音が変わらない」と頑迷に主張しているわけではありません。あくまでもデジタルプロセスの基本知識を踏まえた比較と分別で、良い音で聴くためのアプローチを奨めているわけです。機器やアクセサリーをやみくもにとっかえひっかえするのではなく、何らかの仮説を立てながらデジタルチューニングをする方が楽しいのではないかということです。そのための基本知識やマナー(手法)を説いています。

ディスクののファイル化、すなわちリッピングにかなりの紙数を割いています。配信のハイレゾだけではなく、過去に蓄積されたCDは今後も主要な音源で資産であり続けるだろうとの認識だからです。そのために音楽CDのデータ構造やファイル構造にも十分な解説がされていることも有益です。究極の目標はビットパーフェクトのリッピングです。そのためのリッパーのソフト面の技法を丁寧に解説しています。光学ドライブのハードや電源などについて、あるいは主観的な音質比較は、スコープ外としているのも本書の基本ポリシーというわけです。

おそらく表題は、出版社編集が著者の意図とは関係なく、いかに耳目を引くかということで付けたのでしょう。表題ほどには挑発的ではないので、物足りなく感じる読者もいらっしゃるかもしれませんが、ファイルオーディオにつきまとう論点はかなり網羅されていて、頭の整理にはとてもよい本です。

ひとつひとつ論点を取り上げてもきりがないので、末尾に本書の目次を揚げておきます。これを見るとどうして目を通してみたくなるオーディオファンは多いのではないでしょうか。

ところで、本書でも「エンファシス」のことに言及しています。最近、このことを日記でも取り上げましたので、この点について別途、もう少し詳しく書いてみることにします。


デジタルなのになぜ音が変わるのか?_1.jpg

デジタルなのになぜ音が変わるのか?
 良い音で聴くためのデジタルオーディオ作法
大槻 英樹 (著)
秀和システム



●1章 ハイレゾとデジタルオーディオ
1  デジタル音楽とハイレゾにいたる道
2  ハイレゾ時代に活躍する「DAP」進化する「DAC」
3  本当にCDではなくハイレゾを買うべきか?
4  PCMの原理を理解しないとハイレゾの真実はわからない
5  ハイサンプリングの効果は音色波形の再現性向上?
6  ハイビットの効果はサンプリング定理近似限界突破?
7  期待のハイレゾ「DSD」はPCMより良い音なのか?
8  DACは本当に「原波形復元」できているのか?
9  「CDではなくハイレゾを買うべき」それはウソ?
10  ハイレゾの効果を確かめるにはどうすればよい?
11  「音圧戦争」波形が潰れていても良い音なのか?
12  DSDは潰れてしまう
13  オーディオ用語の誤解と混乱、まぎらわしい宣伝文句
14  「ハイレゾ対応電源ケーブル」は何に対応しているのか?

●2章 ディスクのファイル化
1  膨大な音源資産「音楽CD」
2  エラーなく終了してもビットパーフェクトとは限らない「リッピング」
3  音楽CDのデータ構造
4  無視してよい「フレームエラー」
5  細心にケアすべき「リードエラー」
6  気をつけようがない「光学ドライブ」
7  ドライブをがんばらせる「セキュアリッパー」
8  リッピング結果を世界中で共有する「チェックサムDB照合サービス」
9  音楽CDのトラック構造
10  「プリギャップ」のゆくえ
11  読まないと損する「HTOA」
12  ドライブもディスクもズレている
13  ズレてるとヤバいチェックサム照合
14  ビットパーフェクトにリッピングするには
15  補間と付き合う

●3章 ビットパーフェクト再生とデジタル音質
1  そのソフトウェアではビットパーフェクトにならない?
2  ウィンドウズ・オーディオエンジンの不都合な真実
3  ハードウェアがビットパーフェクトなわけ
4  DACチップに届くゼロイチが変わらないなら悪玉は「ジッター」か?
5  困ったことにDACは原発振を使えない
6  DACチップを原発振で動かせる「アシンクロナス転送」
7  アシンクロナスせずにジッターを減らすには?
8  ジッターは何に悪さするのか?
9  ビットパーフェクトでも音は変わるのか?
10  もしビットパーフェクトでも音が変わるならそれはなぜか?

●4章 ファイルオーディオを楽しむ
1  音楽CDはファイル化して聴いたほうが「良い音」なのか?
2  選ぶべきファイルフォーマットはどっち?
3  「圧縮するしない」は未来の自分に訊いて決める
4  ファイルを読む
5  ファイルを改造する
6  ファイルを比較する
7  「ギャップレス再生」で削除すべきギャップはどこにある?
8  「高品質CD」はファイル化しても高品質なのか?
9  もしかして「エンファシスCD」をデコードせずに聴いていませんか?
10  そのファイルは密かに「HDCD」エンコードされているかもしれない
11  「コピーコントロールCD」に出会ったら
12  実はおもしろい「HDMI」
13  トランスポートをつくる

おわりに
著者紹介・参考文献
用語説明
英語略称一覧

■コラム目次
1 実は百花繚乱のデジタルオーディオ規格
2 「ビット数」の話
3 「デシベル」の話
4 「ディザ付加」は何を付けているのか
5 原波形復元精度をデータレベルで確認するには
6 ハイレゾには「容器の規格」はあるが「特性の規格」はない
7 悲しき音圧戦争
8 音楽CDとCD-ROMの容量
9 〝脆弱〟なんて言ってはいけない
10 「仮想ドライブ」は理想か幻想か
11 iTunesは「エラー訂正を使用」するとセキュアリッパーになるのか
12 サブコードのオプション情報
13 プリギャップのタイム表示
14 いろいろな「隠しトラック」
15 「iTunesで再生すると音が悪い」は本当かもしれない
16 繋いでないのに再生できたり同期したり
17 「音がいいビット」は存在するか
18 「ファイルパス」の話
19 「WAVEはメタボっている」のウソ
20 アナログ信号をファイル化する
21 再生システムは「エンファシス自動解除」の夢を見るか
22 マイクロソフト社の憂鬱
23 グランドとアースとシールドと
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