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ラヴェルの耽美的世界 (芸劇ブランチコンサート) [コンサート]

ウィズ・コロナになって2回目のコンサート。

この芸劇ブランチコンサートばかり続けてですが、これほど自然な流れの催しは他にないのかもしれないと思ってしまいます。もともと2千席の大ホールでの室内楽コンサートでの休憩無しの1時間ほどのミニコンサート。ピアニストの清水和音さんの信頼を得た日本の若手ばかり。感染対策は万全ですが、そこに無理がないのです。

この日はラヴェル。

冒頭の「亡き王女のためのパヴァーヌ」は、オリジナルのピアノソロ版。

こんなシンプルな曲ですが、それだけにオーケストラ版にはない演奏解釈の多様性を秘めています。ラヴェルがパリ音楽院在学中に作曲した初期の作品ですが、古風な擬古的な響きの中にラヴェルのルーツでもあるスペインへの憧憬が込められています。誇り高き高貴な美意識で聴くものを耽溺させる演奏や情緒纏綿としたロマンチックな演奏もあれば、メナヘム・プレスラーのようにクラヴサンを擬したような古風な響きを強調するスタイルもあります。

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清水さんのピアノは、淡々としながらも水底が透けて見えるような美しい透明な音色。とても若かった清水さんのファンになったのはまさにこういう音でした。若き日のエッシェンバッハも同じように透明で清潔な音色が好きでした。そういえば清水さんもエッシェンバッハもごく若い頃はアイドル的存在で、今になっての面変わり振りも共通で、そんなことに思い出し笑いしながら、決して高評価ではなかったこの曲をずいぶんと歳を隔ててから管弦楽に編曲したラヴェルの若き日々へのはにかみと正直な憧憬の思いをかみしめました。


二曲目は、ヴァイオリンとチェロのためのソナタ。

ドビュッシーへの追悼として書かれた曲ですが、「亡き王女…」とは打って変わって硬派の曲でどちらかと言えばとっつきにくい難解なところもある曲です。ヴァイオリンとチェロのデュオというのも今でこそ演奏される機会が増えましたが、かつては馴染みの薄いものでした。それを藤江さんと岡本さんの若い二人が実に面白く、わかりやすい音楽として生き生きと演奏するので嬉しくなってしまいました。

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藤江さんのヴァイオリンは初めて聴きます。パリ留学を経て、今はトゥールーズ・キャピタル国立管弦楽団のコンミスだそうです。音は細めですが芯がしっかりした美音で、フレージングの造形が見事。ピカソの線描のようなシンプルな力強さと美意識を感じさせます。

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その藤江さんと気の合ったやりとりを聴かせてくれたのが岡本さん。その滑らかな美音もさることながら、飄々とした技巧のやりとりから実に闊達で楽しい音楽を奏でます。このお二人、実は、日本音楽コンクール第一位同志の同期生なのだそうでよく知った間柄なんだとか。清水さんが、岡本さんを『チェロ界の藤井聡太』と紹介して笑わせましたが、確かにわかりやすい。いまも学生さんだそうですから、そこも同じです。

この三人が一堂に会したピアノ・トリオが素晴らしかった。

いかにもラヴェルらしいエキゾチシズムにあふれた旋律とリズム、多彩な音色と強弱が織りなす繊細なニュアンスに富んでいて、それでいて凜としたテンションがあって、聴いていてわくわくしてしまいます。デュオの時にも思いましたが、藤江さんも岡本さんも音程が素晴らしく精確で安定している。だから、重なり合った時の和声が爽快なほどに輝かしく響きます。

こんな状況のなかでの簡素なコンサートで、これほど素晴らしいラヴェルが聴けるとは思いもよりませんでした。






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芸劇ブランチコンサート
清水和音の名曲ラウンジ
第26回「美しきラヴェルを聴く」
2020年8月26日(水) 11:00~
東京・池袋 東京芸術劇場コンサートホール
(1階N列22番)

ラヴェル:
 亡き王女のためのパヴァーヌ
 ヴァイオリンとチェロのためのソナタ
 ピアノ三重奏曲

ヴァイオリン:藤江扶紀
チェロ:岡本侑也
ピアノ:清水和音
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