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「幻想」の世界に酔いしれる (河村尚子 ピアノ・リサイタル) [コンサート]

久々にホール満席の空気と熱気を味わいました。さいたま芸術劇場・音楽ホールは、最前列こそ飛沫感染防止のために空けられていましたが、席間も空けることなくほぼ満席でびっしり。客席のざわめきにも熱気をはらんだ密度の濃い空気を感じます。

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河村尚子さん自身にとってもステージに立つのは半年ぶりのことなのだとか。そういう悔しさとともに、活動の空白がもたらした集中力の高まりが一気に花開くようなリサイタル・コンサートでした。

モーツァルトの「幻想曲」は、少し速めのテンポのアルペジオにのってラモーやクープランに想いを馳せるようでありながら、どんどんとそういう古典から逸脱するような感情の綾が立ち上っては消え、消えては立ちのぼり、最初からただならぬ気配。

シューベルトの長大なソナタは、幻想の世界の向こう側のような美しい瞑想が果てしなく続きます。いままでの河村さんにはなかった新しい境地というのか音楽作りがあるような気がします。それは、私にとっては、同時にシューベルトの魅力にまたまた深みを与えてくれるもの。

そのシューベルトを聴かせてもらっただけで後はもういらないとさえ思ったのですが、後半がまたまたすごかったのです。

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幻想という世界が、百花繚乱、華のようなきらめきが火花のようにはじけるドビュッシー。河村さんの蠱惑的な最高音が魅了します。彼女のショパンを聴くのは久しぶり。その「レント・コン・グラン・エスプレッシオーネ」はぐっと大人の成熟ぶりで、碧の水面の氷河湖のように憧憬の冷熱の深みをたたえています。「幻想即興曲」のほとばしるような情熱。「舟歌」がこんなに熱く燃えさかるなんて。

アンコールに先だって「大きな声を出すのは、ほんとうはいけないでしょうけど…」と語り出した河村さんは、会心の演奏だったという思いを自ら隠しきれない満面の笑み。鳴り止まぬ拍手に応えて、3曲もアンコール。かつては彼女のホールマークのようにしていた「献呈」を久しぶりに聴きましたが、こんなに高まりを感じたのは初めて。最後のベートーヴェンは、用意していたものではなく、とっさのものだったのでしょう。

首都圏では、翌日の日フィルとの共演以外はこれっきりなのだとか。関西、九州でのリサイタルを聴く人々にも同じように大いなる幸いあれと叫びたくなる思いで会場を後にしました。



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ピアノ・エトワール・シリーズ アンコール! Vol.9
河村尚子 ピアノ・リサイタル
2021年4月177日(土)15:00
彩の国さいたま芸術劇場 音楽ホール
(1階F列20番)

ピアノ:スタインウェイ


モーツァルト:幻想曲 ニ短調 KV 397(385g)
シューベルト:ピアノ・ソナタ第18番 ト長調 D 894「幻想」

ドビュッシー:映像 第1集 〈水の反映〉〈ラモーを讃えて〉〈動き〉
ショパン:夜想曲 第20番 嬰ハ短調「レント・コン・グラン・エスプレッシオーネ」
ショパン:幻想即興曲 嬰ハ短調 作品66(遺作)
ショパン:舟歌 嬰ヘ長調 作品60

(アンコール)
シューマン :幻想小曲集 なぜ Op.12-3
シューマン/リスト:献呈
ベートーヴェン:ピアノソナタ第26番『告別』より第三楽章「再会」
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