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「人口と日本経済」(吉川洋著)読了 [読書]

日本の人口減少は避けられない。人口減少は、すなわち国勢の衰退に他ならない。そういう日本経済悲観論に「否」を唱える…というのがキャッチフレーズ。

人口問題と経済成長をめぐる経済学史としては確かに面白い。テーマは日本が直面する深刻な問題だが、わかりやすく平易な語り口でわかりやすい。なるほど、そういう視点もあったのかと、急速な少子高齢化がもたらす問題や、その対策を考えるよいきっかけを与えてくれる。

人口問題といえば、よく知られるのはマルサスの『人口論』だ。そのことは学校で習った。その「人口の原理」とは、人口は等比級数的に増加するが食料生産は等差的にしか増えない…という人口抑制を説くものだった。けれども、産業革命によって、そういう経済悲観論は吹き飛んでしまった。

逆に人口減少が経済に与える問題を説いたのはケインズ。二十世紀前半の欧州は、人口増と減が交錯する。膨張する新興工業国ドイツと縮小する大英帝国。その不安定な経済と政情の問題と解決を「需要」だと喝破した。投下資本抑制というエンジン失速を有効需要を注ぎ足しすることで再起動させようというわけだ。

論は、古くは中国古典時代の人口推計から、日本の江戸から明治の人口動態と経済成長の話しやスウェーデンの人口論などにも及び、教科書的な経済論から飛び出した面白さがあって興味は尽きない。

けれども、「人口減少を悲観することはない」というキャッチフレーズには大いに疑問がある。

本書の後半は読んでいて相当にもどかしい。

人類がいまだ直面したことがないと言われるほどの急速な人口減を目前にした日本。マイナス金利政策というケインズ理論の底を割ってしまった金融政策にも先が見えない。老齢化によって労働人口減少に見舞われていながら、雇用構造は改善せず格差拡大と分断が進む。

要は、イノベーションこそが経済成長を生む…ということ。一人当たりの生産が伸びてさえいれば国民生活は安泰だと言いたいようだが、書いてあることは一転二転していて、自己撞着だらけ。一向に人口減少による衰退の不安は拭えない。戦後の日本経済は、団塊の世代が一貫してストーリーを書いてきた。「高度成長」しかり「バブル」しかり、「失われた二十年」も、長寿化による「超高齢化社会」だってそうだ。著者は、大人用の紙オムツも立派なイノベーションだと宣うが、これだって団塊世代を必死に追っかけているマーケティング過ぎないと思う。

その団塊世代の退場がいよいよ迫っている。私たちは、人口減少という瀑布の落口を目前にして流水速がどんどんと増す恐怖に怯えている。しかも、人口大国である隣国のあからさまな膨張主義にさえも脅かされている。

そういう切迫感が本書にはない。

とかく御用学者はなんとでもとれるようなことを言う。あるいは、経済学者とはのんきな漫談家になりさがったものだとも思う。最後は、こんな八つ当たりめいた気分がどうにも拭えなかった。


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人口と日本経済
長寿、イノベーション、経済成長
吉川 洋 著
中公新書

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