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聴くバッハ、そして観るバッハ (大塚直哉レクチャー・コンサート) [コンサート]

古楽ファンにとっては、NHK-FM「古楽の楽しみ」案内役としてもおなじみの大塚直哉さんが、2018年以来続けているレクチャー・コンサート。「オルガンとチェンバロで聴き比べるバッハの“平均律”」と題して、バッハの“平均律”のプレリュードとフーガを1曲ずつ取り上げて、オルガンとチェンバロで弾き比べてみようというシリーズ。

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もともとは、ホール備え付けのポジティブオルガンを体験してみようという企画から始まったそうだ。オルガンは埼玉県の所有。聴いたり、実際に触ったりという体験プロジェクトから、それではチェンバロと聴き較べてみたらどうだろうということから、このシリーズは始まったそうだ。

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実際に聴いてみると、チェンバロとはずいぶんと印象が違う。減衰楽器のチェンバロは音の弾ける頭でリズミカルに折り重ねられていくステッチ刺繍だとすれば、オルガンは音が持続していてくっきりとしていて色鮮やかな面を織りなす染め物ということでしょうか。

この日は、ゲストに映像作家の大西景太さんを迎えて、バッハの音楽の視覚的な観点をめぐるお話し。実際に、大西さんの動画画像を紹介しながらの、とても興味深いお話しでした。最後には、大西さんと大塚さんとご一緒にその場で即興の画像を実演してみせてくれました。

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音楽(聴覚)と画像(視覚)とは、とても密接な関係があります。

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バッハの自筆楽譜は、目で見てもとても美しい。“平均律”の自筆楽譜の表紙は、バッハ自身による装飾的な文字が大きく描かれていて、これ自体が何か音律的な本質を視覚的に表現しているかのよう。

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イザベル・ファウストは、無伴奏ヴィオリンの演奏では自筆譜を譜面台に置いて演奏していましたが、それは譜面からその瞬間瞬間のインスピレーションを得るためだと語っていました。なるほど自筆譜を観ると、16分、32分の符尾(はた)の縞帯は大きくうねっていてフレージングの何かを示しているかのよう。音楽は、明らかに視覚的なイメージを持っているのです。

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クレーは、音楽が好きで、その作品には多くの音楽的イメージが描かれています。様々な形のモチーフが入れ替わり立ち替わり模倣されて追いかけていき折り重ねられていく。そういうイメージを見事に描いた作品もあります。

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エッシャーは独特の回帰パターンを描いていますが、確かにバッハの音楽は輪廻転生、回帰的な円環をイメージさせます。その円環は単にひとつではなく、ある共通の中心を持ったもので、大塚さんによれば、その同心円の中心がゆっくりと揺れている感覚があると言っていました。

大西さんの作品は、NHKの「名曲アルバム」でも紹介されています。

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その作品のいくつかが、ステージ後方のスクリーンに映し出されましたが、動画だけに音楽の基本構造や仕掛けがよくわかります。特に、譜面で観ただけではなかなか理解しにくい、反行や逆行のカノンも面白いほどにその技巧が直観的に理解できます。極めつきは、鏡写しのカノン。これにはあっと息を呑んだほど。下降していくコード進行に上声が彩りをつける対位法も音楽に合わせた動画で観ると、全身の律動を誘ってとても心地よい。

お二人のこんな対談を聞いた後の後半。3つのテーマが絡み合う嬰ヘ短調のフーガのロマンチックな側面がひときわ情緒的に伝わってくるし、動きの速いト長調もなおいっそう心が躍動することが不思議です。バッハには、楽譜を見ながら聴くと不思議なほど楽しさが増しますが、その延長上にアニメーションがあるようです。トリルの動きなんて思わず笑ってしまうほど。

最後にアンコールとして、ステージ上のワークステーションで大塚さんの演奏に合わせた即興動画まで披露されました。テーマやモチーフをあらかじめモジュールとして制作し登録しておき、譜面を見ながら演奏のタイミングに合わせて画面上に起動展開させていく。メーキングの現場のような面白さもあって、会場中が沸き返りました。



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大塚直哉レクチャー・コンサート
 オルガンとチェンバロで聴き比べるバッハの“平均律”
Vol.6 聴くバッハ、そして観るバッハ
2021年7月11日(日)14:00~
彩の国さいたま芸術劇場 音楽ホール
(2階 SL列12番)

J. S. バッハ:《平均律クラヴィーア曲集第2巻》より
 第17番変イ長調BWV886
 第18番嬰ト短調BWV887
 第13番嬰ヘ長調BWV882
 
【対談】聴くバッハ、そして観るバッハ 大西景太&大塚直哉

 第14番嬰ヘ短調BWV883
 第15番ト長調BWV884
 第16番ト短調BWV885

【アンコール】
即興演奏(映像とポジティフ・オルガンによる)
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