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大きく、美しい (南紫音 ヴァイオリン・リサイタル) [コンサート]

久しぶりのフィリアホール。

ちょっと遠くて往き帰りに時間がかかる。それで足が遠のいたのはコロナ禍以前のことでしたらもうずいぶんと経ちます。それが南紫音を久しぶりに聴きたいという誘惑に勝てず足を運びました。南紫音を聴くのも、これもまたほんとうにに久しぶり。

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クララ・シューマンの3つのロマンス。ヴァイオリンの旋律は、いかにも女性らしく叙情的で繊細、精妙。南の情感表現もいっそう磨きがかかった気がします。一方でピアノはとても情熱的でむしろ男性的。こういう男女の情感の交歓を描くのはブラームスに顕著だけど、その模範はクララにあるのではないでしょうか。

シューベルトのソナタ。ソナチネとも呼ばれるようですが、4楽章形式で内容も堂々とした構成。第一楽章などは、むしろベートーヴェン的。それでも第2楽章などはいかにも歌にあふれていてシューベルトそのもの。情感の揺れ動き、あてどもない旅路の起伏、光の明滅。そういうシューベルトにも南のヴァイオリンにいっそうの磨きがかかったような気がしました。

後半は、R.シュトラウスのソナタ。若き日の修業時代の伝統的な古典的様式の集大成、一方で、いよいよ交響詩作曲家として名を知らしめる成長の飛躍という、二面性を秘めた曲。たいがいのヴァイオリニストは、そのどちらか、特に、前者の古典的様式美に、全体の雰囲気を合わせている様な気がします。

南紫音は、むしろ、後者。そもそも、前半から二目盛りぐらいあげた音量の大きさに思わず目を瞠らされます。

確かに、第一楽章を聴くと、簡明でなおかつ明朗な響きと音楽の流れは伝統的な形式美に満ちています。第二楽章も甘美な叙情に満ちていますが、そのロマン的嗜好にはぐっとドラマの深みがこめられています。

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あっと驚いたのは第三楽章で、これはもう交響詩「ドン・ファン」のような管弦楽を聴いているかのようなスケールの大きい、吹き上がりが爽快で豊穣な色彩に満ちた音響です。ピアノの山中惇史は、作曲科出身らしくピアノのソノリティを磨くというよりも、音楽の構造そのものを描き出すガッツリとした音色で、さながら管弦楽曲のトランスクリプションのようなピアノ。

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南紫音は、この曲をデビュー2枚目のアルバムに録れています。家に帰って、あわててこのCDを引っ張り出して聴いてみました。すると南の演奏はこのときから一貫していて変わっていないということにまたびっくり。チョン・キョンファやジャン=ジャック・カントロフなどとも聴き較べてみましたが、その目指す方向の違いは明らかです。

今回は、中央からやや右の3列目の席でした。ほとんどかぶりつきといってよい席でした。それだけに、たくましく、スケールの大きい、強く美しい音の印象が耳に焼き付いています。


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土曜ソワレシリーズ《女神との出逢い》  第291回
南 紫音
ヴァイオリン・リサイタル
2021年9月11日(土) 19:00~
横浜市・青葉台 青葉区民文化センター フィリアホール
(1階3列16番)

南紫音:ヴァイオリン
山中惇史:ピアノ

クララ・シューマン:3つのロマンス Op.22
シューベルト:ヴァイオリン・ソナタ(ソナチネ)イ短調 D385

R.シュトラウス:ヴァイオリン・ソナタ 変ホ長調 Op.18

(アンコール)
ブラームス:歌の調べのように Op.105-1
      FAEソナタより スケルツォ


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