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白と黒と (小川典子 ピアノ・リサイタル) [コンサート]

小川典子さんは、ロンドンを拠点に活動しているが頻繁に日本とも往復しているのだとか。それは何と昨年の1年間だけで12回にも及ぶ。それで通算120日間(?!)もの隔離時間を体験。指定ホテルの部屋から一歩も出られず、食事もドアでやり取りする弁当だけ。そんななかでロンドンの街で転んで指の骨を折ってしまった。ピアニストとして一大事と思う一方で、そんな生活からしばし解放されるとほっとする気持ちがあったそうです。幸い、今はまったく支障もなくラフマニノフの3番も弾ききったのだとか。

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そんなお話しをにこにこしながらお話しされていた。本当に真っ直ぐな飾り気のないお人柄を感じさせ、それでいて窮屈さが少しも無くてほんのりとした暖かみがある。その演奏スタイルも、確かな技術で禁欲的とも言えるほどの即物主義のスタイル。直線的で構成的、手触りの堅いモノクロームなリアリズム感覚。それでいて音楽としての伸びやかさ、しなやかさを感じさせる。

前半のモーツァルトやベートーヴェンがまさにそういう音楽。正統的で、新奇をてらうことは一切無い。ただ、それだけにピアノの響きや音色にもう少し透明感が欲しかった。

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がぜん面白かったのは、やっぱり後半のドビュッシーです。

楽器のチューニングはもしかしたら後半に合わせていたのかもしれません。最低域の響きの緩みがドビュッシーの左手のたっぷりとした長音にぴったり。低・中・高のテンペラメントの弾き分けもそのままに聞こえてきます。フレンチ・ピアニズムといえば、真珠のような粒立ちと美音というのがイメージですが、小川さんのそれはモノクロームの鉛筆画のように精密でリアルな描写的。楽譜をそのままにピアノを鳴らしている。それがかえってドビュッシーの筆致を実に鮮やかに浮き彫りにさせる。その触感や音の凹凸、エキゾチックな和声、調性の持つ色彩感が面白いほどに浮かび上がってきます。

ミンストレルの俗っぽいパリの雰囲気を引き継ぐように、最後にサティでプログラムを締める。そして、アンコールでは、食事を終えた夜の休息のようなドビュッシーの瞑想をいただく。一見、白と黒のような前半後半の対比なのに、聴き終えてみると白と黒との鍵盤の面白さを存分に味わえた充足感があって、午後はゆっくりと銀座を散策することにしました。


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浜離宮ランチタイムコンサートvol.213
小川典子 ピアノ・リサイタル
2022年4月21日(木) 11:30~
東京・築地 浜離宮朝日ホール
(1階13列11番)

小川典子 (ピアノ)

モーツァルト:ロンド イ短調 K.511
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第8番「悲愴」 ハ短調 Op.13

ドビュッシー:前奏曲集 第1集
        第1曲 デルフィの舞姫たち
        第2曲 帆
        第3曲 野を渡る風
        第4曲 音と香りは夕べの大気の中に漂う
        第5曲 アナカプリの丘
        第6曲 雪の上の足あと
        第7曲 西風の見たもの
        第8曲 亜麻色の髪の乙女
        第9曲 とだえたセレナード
       第10曲 沈める寺
       第11曲 パックの踊り
       第12曲 ミンストレル
サティ:ジュ・トゥ・ヴ(あなたが欲しい)

(アンコール)
ドビュッシー:月の光

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