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長原幸太リーダーによる室内楽 (読響アンサンブル・シリーズ) [コンサート]

3世代にわたるロシアの作曲家による室内楽をずらりと並べたプログラムは壮観。

それは《ロシア》というものを一元的に見がちな私たちの目を洗い流すようなもので見事。いまだからこそ聴くべきプログラムとも言えますが、実はこの企画が決まったのはロシアによるウクライナ侵攻が始まった2月以前のことだったそうです。

まずは、一曲目のタネーエフがずっしりと重い。

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長原さん曰く、最初っからメインディッシュ、しかも、16オンスの特大ステーキ。

タネーエフは、10歳でモスクワ音楽院に入学し、ピアノはニコライ・ルビンシュタインに師事し、作曲はチャイコフスキーに師事し、あのピアノ協奏曲第1番のモスクワ初演を弾いたというのですから、まさにロシアのど真ん中、正統正流みたいなひと。

これも長原さんの言ですが、堅い弓で弦を重く押しつけるような極めて重たい暗い音調でずっと高いテンションで弾き続ける。演奏者だけでなく聴いているこちらもどっと疲労感を覚えるほど。ドストエフスキーを読みながらベートーヴェンを聴いているようなもので、最後のフーガなど、まさに「大フーガ」をさらに弩級に拡大したようでT型戦車大隊のような曲。

二曲目のボロディンは、いわば、おしゃれな箸休め。

ボロディンは、ロシア五人組のひとりですが、医学も学んだ化学者。生まれ育ちはサンクトペテルブルクという西欧風の都会。しかも、父親はグルジア王国の貴族(大領主)ですから、都会育ちで高貴な血筋のインテリ。この弦楽六重奏曲は、ドイツのハイデルベルク滞在中の若書きの未完の習作で二楽章で終わっている。だから、とてもお洒落で西欧的、さらに何ともいえず民謡的な旋律の魅力もあります。タネーエフとはずいぶんと雰囲気が変わります。

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休憩をはさんでの後半は、全員総出の八重奏曲。

グリエールは、キエフ生まれなので、今風に言えばウクライナ人ということになりますが、父親はドイツ人、母親はポーランド人です。モスクワ音楽院では作曲をタネーエフに学び、ソ連時代には作曲家同盟の重鎮だった人。作曲をアレンスキーに学んだそうで、ロシア正統の作曲家ともいうべき存在です。少年プロコフィエフに作曲の手ほどきをしたとか、ハチャトリアンなどの後進も育てたというから、まさに、ロシア~ソヴィエトの音楽界の真ん中にいた人。

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演奏も、これが同じアンサンブルかと思えるほどタネーエフとはうって変わって流麗でスラブ情緒たっぷり。ドヴォルザーク的な民族舞曲もあるしチャイコフスキーばりのメランコリックな旋律もあれば、弦楽オーケストラがシンフォニックに展開していくような壮大な終結部があって大盛り上がりです。

私たちの世代は、地図を見ても「ソ連」と赤一色。音楽であっても、どこの出身であってもソ連出身でひとくくり。誰のどういう曲でも、みんなロシア音楽ということになっていました。こうやって三人の作曲家のそれぞれの作品を聴いてみただけでも、「ロシア」というのは多様性に富んでいます。ロシアとは一絡げにできない多民族国家であり、文化やその民族性、気質は様々なんだなぁと思います。

シベリア抑留者の証言では、住民の老婆が「いまよりツァーの時代がよっぽどましだった」と言っていたとか、私自身もサンクトペテルブルクで「旧ソ連時代のほうがよっぽど暮らしやすかった」と言っているひとに会いました。プーチンが大統領になってまだ間もない頃でした。ロシアという国はどんどんと悪くなっているのでしょうか。



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読響アンサンブル・シリーズ
第36回 《長原幸太リーダーによる室内楽》
2022年12月7日(水) 19:30~
トッパンホール
(P6列 12番)

ヴァイオリン=長原幸太(読響コンサートマスター)
 岸本萌乃加(次席)
 對馬哲男(次席)
 武田桃子
ヴィオラ=鈴木康浩(ソロ・ヴィオラ)
 武田響子
チェロ=富岡廉太郎(首席)
 唐沢安岐奈

タネーエフ:弦楽五重奏曲第2番 ハ長調 作品16
ボロディン:弦楽六重奏曲 ニ短調
グリエール:弦楽八重奏曲 ニ長調 作品5

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