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「ドン・ジョヴァンニ」 (新国立劇場オペラ) [コンサート]

観せる、聴かせるモーツァルト。まっとうなドン・ジョヴァンニ。

でもそこにはモーツァルトらしい人間の洞察とかが浮かんでこない…。

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プロダクションとしては、2008年の制作なのでけっこう古い。新制作のものはたいがい観るようしていたのだが、見過ごしていた。たぶんモーツァルトは、いろいろ観る機会が重なっていたので、その時は食傷気味だったのだろう。あらためて今回観てみると、とてもまともな演出。完成度が高く、なるほど長い時間を越えて繰り返し上演されてきただけのものがある。

まずもって序曲が重め。なかなか重厚なモーツァルトを聴かせる。そのことは一貫して変わらなかった。ピットのフロアはかなり高く、それだけに編成はモーツァルトに相応しい小さめのもののはずなのにシリアスな音響はよく響く。感じる音量は、先日のムソルグスキーでの都響よりもずっと立派。

舞台も見応えがある。ゴンドラで登場するジョヴァンニとレポレッロ。ここがヴェネツィアを模しているとすぐわかる。とはいえ、それが演劇としては何の意味もないそれなりに立派なしつらえで、近世の貴族と庶民という階層感やその装束や振る舞いにオペラを観るというぜいたくを実感させてくれる。

歌手陣も、なかなかの実力者ぞろい。

際だったのは、ドンナ・アンナのミルト・パパタナシュ。豊かな美声でその美貌も凜として輝かしい存在感がある。ドン・オッターヴィオのレオナルド・コルテッラッツィ。代役としての新国立劇場初登場だが、とにかく真っ直ぐで真摯なテノールが気持ちよい。この婚約者の二人が、モーツァルトの揺らぐ人間模様のなかで一貫して変わらない。それがこの歌劇のドラマの確固たる軸になっていた。

それだけに、他の役はもっと自由に役作りや歌唱技巧を凝らして、役の性格や人間模様の機微を現せたはず。それがいっこうに浮かんでこない。

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ドンナ・エルヴィーラのセレーナ・マルフィなど大変な実力者でそこかしこに素晴らしい歌唱を聴かせるのだけど、およそ棒立ちの歌唱の陳列でエルヴィーラの揺れる女心も周囲を拍子抜けさせるような愛憎の豹変ぶりも出てこない。そのことはドン・ジョヴァンニのシモーネ・アルベルギーニも、レポレッロのレナート・ドルチーニも同じ。いずれも見かけは立派なものの、劇としては単調。まるで抜粋で聴かせどころだけを歌っているかのよう。

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ひるがえって日本人歌手たちの健闘ぶりは楽しめた。特にマゼットの近藤 圭には、歌にも演技にも工夫がある。ツェルリーナの石橋栄実は、もっと遠慮することなく奔放に演じてほしいところはあったけれどやりたいことはよくわかる。

こういうことは、演出の責任なんだろうと思う。

演出のグリシャ・アサガロフは、今回のプロダクションにはどこまでかかわっているのだろうか。演出としてクレジットはされているが、それは著作権みたいなものなのだろう。バレエの振り付けと同じで、あとは指揮者や歌手に任せてカネだけはいただいていく…というところなのだろうか。それなら再演演出家や舞台監督の出番だったのだろう。このプロダクションの演劇としてのつまらなさはそういう人たちの未熟さと自主性の無さに帰するとしか言いようがない。






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ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト 「ドン・ジョヴァンニ」
2022年12月8日(木) 14:00
東京・初台 新国立劇場
(1階 4列17番)


【指 揮】パオロ・オルミ
【演 出】グリシャ・アサガロフ
【美術・衣裳】ルイジ・ペーレゴ
【照 明】マーティン・ゲプハルト
【再演演出】澤田康子
【舞台監督】斉藤美穂

【ドン・ジョヴァンニ】シモーネ・アルベルギーニ
【騎士長】河野鉄平
【レポレッロ】レナート・ドルチーニ
【ドンナ・アンナ】ミルト・パパタナシュ
【ドン・オッターヴィオ】レオナルド・コルテッラッツィ
【ドンナ・エルヴィーラ】セレーナ・マルフィ
【マゼット】近藤 圭
【ツェルリーナ】石橋栄実

【合唱指揮】三澤洋史
【合 唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

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