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時代を超えて… (上村文乃 東博でバッハ vol.60 東京春祭) [コンサート]

チェロでも《二刀流》。

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モダンとピリオドの二刀流というのは、ヴァイオリンでは聴く機会がずいぶんと増えてきました。けれどもチェロの二刀流は、初めて。しかも、同じ曲を同じリサイタルコンサートで弾きわけるというのも初めての体験でした。

鮮やかな真紅のロングドレスに黒のパンツという姿で登場した上村文乃さん。法隆寺宝物館のエントランスホールの雰囲気がとてもよくマッチします。

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入り口近くにしつらえた演壇に上がっての演奏。ゆったりとしたテンポでのプレリュードの深々とした響きと音色が心打ちます。バッハの無伴奏が、瞑想と思索であると言えるのなら、その時空間は禅の呼吸そのものなのではないでしょうか。上村さんのチェロは、よく歌いますが、そこにとても深みのある息づかいを感じさせます。そのことは、第2番に至ってより一層深まっていく。プレリュードの上行、下降の音型に合わせて聴いている自分自身がそういう呼吸に同調していくかのような気になってきます。第3番は、そこから鼓動が高まり、呼吸がその律動に同調してどんどんと心が開いていきます。メヌエットの高揚と決然としたジーグ。見事なバッハの世界でした。

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後半は、同じ曲をバロックチェロに持ち替えて、今度は3番で折り返し、2番、1番へと遡っていきます。

同じコンサートでモダンとピリオドを持ち替えるというのは、聴く機会が増えてきましたが、まったく同じ曲を比較するというプログラムは初めての体験。とても意欲的な試みです。

上村さんは、今度は、広い袖の白いシャツにパンツ。バロックダンスを優雅に軽やかに踊る少年を思わせるようなデザインが可愛い。

休憩を挟んでいるとはいえ、まったく同じ曲ですからまだ耳朶に音楽の記憶が遺っています。だから、その音量の小ささにちょっとはっとさせられました。その音量に慣れてくると、音色の違いや、奏法の違いが見えてきて、モダンで奏でられたバッハとはまるで違う音楽が浮かび上がってきます。

それはとても典雅で軽やか。

バロック組曲とは、そもそもさまざまな舞曲を組み合わせたものなんだというオリジナルな姿が見えてきます。

でも、それだけでないのがバッハの音楽の力なのでしょう。上村さんの弓遣いは軽く、まっすぐで、弦のうえを優雅に跳躍する。深い呼吸から脈動へと転移していった前半のモダンからピリオドへ折り返すと、そこから上下し強弱する律動に、どんどんと心の有り様が軽くなって浮揚していく。そのことにとても癒やされます。バロックチェロが紡ぎ出すメヌエットやジーグへと心が舞い上がり、昇華していきます。

モダンとピリオドとの鮮やかなコントラスト。そのどちらをも許容するバッハの多様性と時代を超えた普遍性をまざまざと感じさせる、とても素敵なコンサートでした。


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東京・春・音楽祭2023
ミュージアム・コンサート
東博でバッハ vol.63 上村文乃(チェロ)
2023年4月4日(火)19:00
東京国立博物館 法隆寺宝物館エントランスホール
(5列目中央通路右 自由席)

【時代を超えて…バロック・チェロとモダン・チェロによる聴き比べ】
J.S.バッハ:
(モダン・チェロ)
 無伴奏チェロ組曲 第1番 ト長調 BWV1007
 無伴奏チェロ組曲 第2番 二短調 BWV1008
 無伴奏チェロ組曲 第3番 ハ長調 BWV1009

(バロック・チェロ)
 無伴奏チェロ組曲 第3番 ハ長調 BWV1009*
 無伴奏チェロ組曲 第2番 二短調 BWV1008*
 無伴奏チェロ組曲 第1番 ト長調 BWV1007*

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