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20世紀英国を生きた、才知溢れる作曲家の肖像(ベンジャミン・ブリテンの世界 Ⅴ) [コンサート]

ブリテンを徹底的に深掘りしようというこのシリーズも最終回。

最初は、弦楽四重奏曲やセレナーデなどの歌曲等、小編成の地味な楽曲でスタートしました。それだけにディープな雰囲気たっぷりのマニアックなシリーズでしたが、最終回は本格的な大オーケストラによる管弦楽作品です。

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会場は、東京芸大のキャンパス内にある奏楽堂。

上野公園に移築された旧・奏楽堂を引き継ぐものですが、その意匠も規模もまるで桁違い。ガルニエ製パイプオルガンも備えた1100席の本格的な現代コンサートホール。教育・研究の場でもあるので、編成規模やジャンルに合わせて音響特性を調節できるよう可変式の天井を備えていますが、本質は、立派なシンフォニーホール。

臨時編成のオケなのですが、実際に聴いてみてびっくり。何しろ、弦楽器パートだけでも在京オケのトップがずらり。管楽器だって堂々たる実力者ぞろい。プログラム各曲のキーとなる打楽器もティンパニーの武藤厚志さん以下、すご腕の面々。

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コンミスは、川田知子さん。

眼鏡をかけておられたので、いったい誰だろうとよくわからなかったのです。眼鏡のせいでとてもお若くみえる。ご本人に面と向かって言ったら、歯の浮くお世辞ととられかねないのですが、芸大在学の学生さんかと思いました。本当に正直な気持ちです。

最初は《チェロ交響曲》。

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作曲家・ピアニストである加藤昌則さんの恒例のトークが入りますが、何とソリストの辻本玲さん(N響首席)が登場して説明に沿って、主題や副主題やらを実演してくれる。確かにスタミナ十分に見える辻本さんですが、本番前のレクにお付き合いというのもちょっと前代未聞。

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4楽章形式の交響曲であり、実質的にはチェロ協奏曲ではあっても分厚いオーケストラとまともに対峙してのソロは、ロストロポーヴィチのために書かれただけあって実に雄渾。古典や古楽の復古と、現代音楽の新技術を融合させるというようなブリテンの作風そのものの大曲。第一楽章は、ずっしりとした古典的ソナタ形式。いかにもチェロらしいスタウトなカデンツァに続いての終楽章はブリテンお得意のパッサカリア。

《チェロ交響曲》は、おそらく40分弱の曲だけれども、レクチャーにもたっぷり時間がかけられていることもあって、大変な大曲を聴いた気分です。実際に、この1曲だけなのに前半は終了。すでに1時間以上過ぎていました。

《シンフォニア・ダ・レクイエム》は、第二次大戦勃発の年、日本の皇紀2600年奉祝曲として委嘱されたもの。戦争を嫌ってアメリカに移住していたプリテンは、委嘱料目当てに飛びつき、実際、予定以上の委嘱料が支払われた。ところが、演奏そのものは拒否されてしまう。加藤さんは、建国の祝典に鎮魂曲を送りつけるというのは痛烈な皮肉で、そこがいかにも平和主義者で皮肉たっぷりのブリテンの芸術観があると説明していました。

実際、日本側でそういう論争もあったようですが、実のところ当時の日本の楽団の実力では演奏不能だったのではないかという説もあるようです。ブリテンの管弦楽曲としては代表的なものでCD時代になって聴く機会の多い曲ですが、生で聴くのは初めて。演奏不能説もなるほどと思わせる大規模音響の曲で、この臨時編成オケの凄味に度肝を抜かれる思いがしました。

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席は10列目中央と理想のポジション。客席の後方はかなりの傾斜で高くなっているのは、おそら、く講堂としての視界確保のためで仕方のないところですが、10列目は前方の平土間部分のほぼ中央です。オーケストラの録音の標準そのものというバランスは、直接音と間接音、音量のダイナミックス、ステージの遠近感としても理想的で、特上の場所に恵まれました。

ホール音響は少しも飽和せず、しかも、大音量のハーモニーの快感があります。あくまでも大学内の教育施設なのであまり知られた存在ではないわけですが、実のところ知る人ぞ知る的な隠れた名シンフォニーホールなのではないでしょうか。

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最後の最後は、《青少年のための管弦楽入門》。

なかなか聴かれる機会のない二十世紀作曲家ブリテン…というシリーズの触れ込みでしたが、これほど多くの日本人に親しまれたクラシック曲は他にもあまりないでしょう。今でも小学校高学年の鑑賞曲になっているようです。私も6年生の時だったか、音楽の筆記試験で、この曲の部分を聴かせて楽器を当てるという問題をやらされたという記憶があります。

つまりは、知られざるブリテンのもっとも知られた曲で6年にわたったシリーズの最後を飾るというわけ。

この曲は、《パーセルの主題による変奏曲とフーガ》としてナレーション抜きでも演奏されるようになっているので、私の持っているレコードやCDもすべてナレーション無しで、演奏時間は16分半程度。

ナレーションが入ると、その度に演奏はいったん休止するので演奏時間はずっと長くなります。さらにオリジナルのナレーション(日本語訳)に加えて、加藤さんがブリテンの作曲技法などの解説を続けているので、なお時間は長くなります。

中嶋朋子さんは、もちろん大女優で朗読活動やシェークスピア劇などもされているわけですが、トークではちょっと天然ボケのやり過ぎのところも感じますし、ナレーションも声質など少しどうかなという部分はありました。それでも、このナレーション入りの演奏はなかなか面白かった。教育用に作られたものでありながら、作曲技法はブリテンそのものの凝りに凝ったものだという、そのギャップが何ともたまらない。

それにしても、ここでもオーケストラが素晴らしかった。むしろ、《レクイエム》以上にオーケストラサウンドの醍醐味が遺憾なく満喫されていたのはこの曲の全合奏部分。吹き上げる天井知らずのブラスの厚みは、生オーケストラでしか味わえない。

もちろん、各変奏部分では、団員それぞれの個人技、パート毎の技量も素晴らしい。最終部の複雑極まる二重フーガの一糸乱れぬアンサンブルは興奮のるつぼ。さらにその高揚の絶頂の果てに、二つのテーマが重なり合う全合奏の大団円の終結部となりました。

ブリテン、ばんざい!



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東京・春・音楽祭2023
ベンジャミン・ブリテンの世界 Ⅴ
20世紀英国を生きた、才知溢れる作曲家の肖像

2023年4月2日(日)14:00
東京・上野 東京芸術大学奏楽堂

企画構成/指揮/お話:加藤昌則
チェロ:辻本 玲
BRTオーケストラ
(コンサートミストレス:川田知子)
ナレーション/トークゲスト:中嶋朋子

ブリテン:
 チェロと管弦楽のための交響曲 op.68
  ソロ(チェロ):辻本 玲

 シンフォニア・ダ・レクイエム op.20
 青少年のための管弦楽入門 op.34
  ナレーション:中嶋朋子

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