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「尚、赫々たれ」(羽鳥 好之著)読了 [読書]

立花宗茂は、太閤秀吉をして「西国無双」と言わしめた武勇、義に生きた名将。関ヶ原で西軍につき敗北、浪人となりながら徳川幕府直参の大名に復活した武将。

その宗茂の視点から、三代将軍家光の代替わりをめぐる治天国家の緊張を描く時代小説。宗茂は、近年、戦国武将としてはダークホース的にその評価が急騰している武将。本書は、そういうキャッチの良さと本格時代小説の相貌を持ちながらも、ブームの波に便乗しようとの下心も見えなくもない。どこか中途半端で画竜点睛を欠く。

前半は、関ヶ原における勝敗を決した謎をめぐって、敗軍の将として生き残り宗茂とともに将軍家「御伽衆」だった毛利秀元に、家光とともにその内実を語らせる場面がクライマックス。とはいえ、その内情は毛利家の内紛ということに過ぎず、大げさな語り口の割には「謎」はごくあたりまえのことでいささかあっけない。

後半は、肥後・加藤家の不始末と改易をめぐっての暗闘。大御所秀忠との二重権力に懊悩してきた家光の、目上であり血統上流の尾張家、紀伊家当代へのうっ屈した思いが緊張をはらむ。とかく「武断政治」などと有力大名潰しの陰謀をめぐらしように言われる家光の治政に対し、家光の天下泰平への切実な希求があったと、その歴史を語るのはよいが、いかにも尻切れとんぼ。肝心の宗茂の立ち回り方にも迫力不足で、結局はストーリーが出来上がっていない。

世に言う太閤検地が、中央集権化や農民搾取といったことよりは、各地に封じられた戦国大名の経済的基盤を確固とし権力集中を促し封建体制の確立の基本となった。それこそが石田三成の知恵だったというのは見識だと思う。確かに、毛利家一統が江戸時代に有力大名として中国地方を支配し続けたのは内紛を乗り越え盤石の藩政を築いたからであるし、それに失敗した大名は地方権力としては存続出来なかった。家光もむやみに改易の陰謀を凝らしたわけではなく、こうした藩政基盤を築けなかった大名を淘汰し、不満擾乱の芽を摘むという治政の王道を推進したからこそ、300年の泰平につながった。それが幕藩体制の真実だと思う。しかし、小説の語り口としては、この見識が十分に活かされているとは言えない。

著者は、長年、文藝春秋社の小説畑で編集者として活躍した人。退社後、60台にして作家デビューとある。いわば編集者の経験を活かしながらの、自己プロデュースということなのだろう。宗茂は立花家への入り婿だったが、流浪時期に病死した正室の誾千代への想いをちらつかせたり、家光の姉である天寿院(千姫)をことさらに登場させるのは、販売促進のための色香という編集者の知恵なのかもしれないが、小説の出来としては明らかに作為に失敗している。

編集者と小説家は、別人格だからこそ成り立つものであって、セルフマネジメントというのはかくも難しい。

なかなか読ませる小説であるだけに、残念感が強い。






尚、赫々【かくかく】たれ 立花宗茂残照
羽鳥 好之 (著)
早川書房
2022年10月25日初刊






尚、赫々【かくかく】たれ 立花宗茂残照 単行本 ? 2022/10/25
羽鳥 好之 (著)





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尚、赫々【かくかく】たれ 立花宗茂残照
羽鳥 好之 (著)
早川書房
2022年10月25日初刊

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