SSブログ

N響 MUSIC TOMORROW 2023 [コンサート]

久しぶりにN響の《ミュージックトモロウ》に足を運びました。

日本の現代音楽の作曲家に与えられる作曲賞である尾高賞。その最新の受賞作品をN響が演奏するというのが、この《ミュージックトモロウ》。

受賞作品とともに、代表的な現代作品も演奏する。今年は、N響とベルリン・フィルなど世界のトップオーケストラとの共同委嘱作品の世界初演というから一段と豪華なプログラム。

N響の高度な技術、初見対応力が存分に総攬できて、当代一流の人気ソリストが登場して、しかも、チケット代はたったの2千円と超お得。

今年の受賞作品は、ともに和の伝統楽器をソロに迎えた協奏曲というのが面白かった。伝統楽器の協奏曲はよくありそうだと思いましたが、尾高賞の受賞としては1977年以来だというから意外。武満徹の「ノヴェンバー・ステップス」が1967年の作品。当時は、和と洋のどこか相容れぬ美意識の衝突と葛藤という対立的なものでしたが、今回の2作品は、いずれも驚くほど融和的、和洋一体となった音響で、いささかあっけないというのか、これまたとても意外でした。

一曲目の藤倉大の尺八協奏曲は、和洋が融け込んだユニヴァーサルな音楽ということで、まさに出鼻をくじかれるような思いがしました。藤原道山を聴くのは久しぶりですが、相変わらず道山の巧さはほんとうに舌を巻くような思いがします。しかし、その技巧というのは人造的な手触りであって、この曲では西洋楽器の室内オーケストラのなかに完全に融け込んでしまっています。尺八という楽器は、超自然でシンプルなものでその音も風音のようにナチュラルで素朴…というのが固定観念としてありますが、ここでの道山の尺八の高域の音色は驚くほどにピュア。フルート以上に正弦波に近い純度の高さがまさに超絶技巧的で、尺八からそういう音を出させることには矛盾をはらんでいるように思えますが、とにかく、おおお~っという衝撃があります。協奏曲というよりは、尺八をフューチャーした室内協奏交響曲という感覚。ブリュターニュの海がテーマだそうですが、海風と海中の浮遊感の心地よさがあって、さすが藤倉大だと思いました。

IMG_7271trm.jpg

ダブル受賞の二曲目は、昨年亡くなった一柳慧の絶筆の作品。

実のところ、この作品が一番共感が持てました。やはり、同じような世代だからでしょうか。一柳慧は、私が中学・高校生の時代から、前衛音楽の旗手。インテリぶった若者のスターのような存在で、コンサートにも何回か足を運んだ思い出があります。それはあくまでも若気の至りとも言うべき知ったかぶりに過ぎず、実験的な音楽には好奇心はあっても心から共感することはなかったというのが本音です。それが、今や不思議とすっと心に染み込んでくるから不思議な気がします。

オーケストラは、藤倉作品よりもさらに簡素で小ぶりの弦楽合奏に打楽器がスパイスとして加わるのみ。金川真弓のヴァイオリンはさすがで、音色もピュアで音程も確か。この曲を聴いていると、共通性を感じて思い浮かべるのはヒラリー・ハーン。その絶対的な対比として浮かんでくるのは、先日リゲティを弾いていたコパチンスカヤ。同じ現代音楽といっても、コパチンスカヤはこの曲は絶対に弾かないだろうと確信できます。現代音楽にはそういう両極端があることに気づきます。その極端にミニマルで冷静客観的な曲に三味線という民族的な伝統楽器があてがわれるというのもある意味で皮肉です。

ヴァイオリンの感情を殺したようなロングトーンに対して、撥弦楽器のクリスプな表情の綾がうまく対比します。弦楽合奏と打楽器のアンサンブルが、その間を取り持ち、ごくごく感情希薄な音楽空間を満たしていく。その配剤の見事さには、不思議な癒やしの感覚がありました。

IMG_7270_1.JPG

後半は、チェコの作曲家の作品。前半と打って変わって巨大な4管編成のフルオーケストラ。

作曲家というものを志したなら、一度はこういうものを書いてみたいのだろうなぁと思わせる巨大で複雑な音楽。絶えず無数の音が輝き仄めき鳴り響くカオスの宇宙的音楽。

前半の2作品とは対照的に、ソリスティックなものは皆無の巨大オーケストラ曲で、ミクロ的には各楽器にとんでもないアクロバティックな演奏技巧を強いているかもしれないのですが、それは目には見えないし聞こえもしない。とにかくいったいどうやってタテを合わせるのかと唖然とするばかり。

素人には想像もつかないような作曲技法の限りが尽くされいるのだろうとは想像するし、楽章に分けられていることもわかるのですがその構造はつかみどころがありません。実際、指揮者の前には巨大な総譜が拡げられていて、のべつまくなしに指揮者はその大きなページをめくっていきます。時間の流れも感じさせないし、物語性は皆無の世界。かえって「ゆく川の流れは絶えずして…」のような無常観すら感じさせるところがありました。

IMG_7283_1.JPG

指揮者の杉山洋一が素晴らしかった。

前半も含めて、楽曲のマネジメント力がとてつもない。演奏の完成度がほんとうに素晴らしい。今回は、予定していた指揮者が個人的な事情でキャンセルして、急遽、イタリアから駆けつけたとのこと。そのことはかえってN響にとっても作曲者たちにとっても幸いだったのではないかと予感はしていたのですが、これほどの充実とは思っていませんでした。指揮ぶりにはよどみがなく、現代音楽に対する心からの共感ぶりが感じられます。団員も至極満足そうで、本人も、満面、快心の笑みを湛えて、演奏の喜びが伝わってきました。


flyer_1.jpg

Music Tomorrow 2023
2023年6月27日(火)19:00
東京・初台 東京オペラシティ コンサートホール
(2階1列25番)

杉山洋一(指揮)
NHK交響楽団

藤倉 大/尺八協奏曲 (2021)
[第70回「尾高賞」受賞作品]
 独奏:藤原道山(尺八)

(アンコール)
 中尾都山/鶴の巣籠(尺八:藤原道山)

一柳 慧/ヴァイオリンと三味線のための二重協奏曲(2021)
[第70回「尾高賞」受賞作品]
 独奏:金川真弓(Vn)、本條秀慈郎(三味線)

ミロスラフ・スルンカ/スーパーオーガニズム(2022)
[NHK交響楽団、ベルリン・フィ、ロサンゼルス・フィル、パリ管、チェコ・フィル共同委嘱作品/世界初演]
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。