SSブログ

クァルテット・エクセルシオ (浜離宮ランチタイムコンサート) [コンサート]

クァルテット・エクセルシオは、川崎・鶴見のサルビアホールでのショスタコーヴィチを聴いて、思わず興奮してしまうほどの感銘を受けました。

サルビアホールというの100人ほどの音楽専門小ホール。駅前の公民館風のビルの中の質素で何でもないような小ホールですが、響きはとてもリッチで弦楽四重奏にはこれ以上のヴェニーはない。もう奇跡とも言えるほどのホールです。

果たして他のホールとはどの程度違うのだろうか?弦楽四重奏の濃密でエネルギッシュな響きは、ほかのコンサートホールではどうなのだろうか?――そういう興味でこのコンサートに足を運んだというのが正直なところです。

lunch_8gt-thumb-350xauto-5120.jpg

モーツァルトの序曲の弦楽四重奏版。プログラムには編曲者のクレジットがありません。チェロの大友さんのトークでは、かつてはオペラも室内の小規模なしつらえで私的に楽しまれたことも多かったのだとか。かといってこの編曲がモーツァルトのオリジナルかというとそうではないようです。

後で調べてみると、オーストリアの修道院に保管されていた18世紀末に書かれた編曲者不詳の弦楽四重奏版の総譜があるそうです。おそらくその楽譜を用いたのでしょう。いずれにせよ、プログラムにこうしたことがひと言も書かれていないのはどうかと思いました。

二曲目は、同じくモーツァルトの「不協和音」。ハイドンを思わせる作曲技法上のエスプリを感じさせ、音楽的には古典的な生真面目さが際立ちます。「フィガロの結婚」序曲もそうですが、聴き慣れた曲を聴く楽しさはありますが、どこか平板で新しい発見とかわくわくするような生演奏らしいスリルはありません。

そのことは、シューベルトの「断章」でも同じ。曲想にはどこかロマン派を飛び越えて、いきなり二十世紀に突入するようなモダンさがありますが、そういうものを聴く戦慄とかテンションが不足してしまいます。

IMG_7634_1.JPG

楽しかったのは後半のメンデルスゾーン。いかにも早熟の天才メンデルスゾーンらしい、造形上の調和があって耳なじみがよい。聴き手にとっても何の予見を求めないからこそ、その音楽の協和的な楽想が気持ちよく流れていきます。もしかしたら、常設四重奏団としてベテランの域に達したエクセルシオの美質はこういうところにあったのかもしれません。

このホールは、中規模の室内楽向け会場としてよい音だとは思いますが、必ずしもトップクラスだとは思えません。ピアノ独奏や、器楽ソロには向いていますが、ハーモニーの響きは今ひとつという気がします。やはりサルビアホールの弦楽四重奏というのかなり特別なものだということなのでしょう。

アンコールがとてもよかった。

グレインジャーは、イギリスの作曲家。とはいえ生まれはオーストラリア、帰国して頭角を現しますが、第二次世界大戦勃発とともにアメリカに移住。有名な「戦士たち」はシカゴのリリックオペラハウスで初演されています。

「岸辺のモリー」は、アイリッシュの調べと響きのなかにリズムや旋律線が面白く交代し絡み合うところが、とても小粋で心地よい。作曲者自身が、弦楽オーケストラや吹奏楽に編曲していてCDではこちらが人気でオリジナルの弦楽四重奏は珍しい。後年、クライスラーがヴァイオリン独奏用に編曲していてこれもCDがあるようですが、作曲者自身はこの編曲を酷評し嫌っていたそうです。集団で踊るアイリッシュダンスのステップのようなリズムのテクスチャがまったく失われてしまうからでしょう。

それにしてもいかにもベテランらしい選曲でした。




Flyer.jpg

浜離宮ランチタイムコンサートvol.229
クァルテット・エクセルシオ
2023年8月17日(木)11:30
1階12列14番

クァルテット・エクセルシオ
西野ゆか、北見春菜(ヴァイオリン)、吉田有紀子(ヴィオラ)、大友肇(チェロ)

モーツァルト:歌劇「フィガロの結婚」序曲 K.492(弦楽四重奏版)
モーツァルト:弦楽四重奏曲 第19番 ハ長調 K. 465「不協和音」
シューベルト:弦楽四重奏曲 第12番 ハ短調 D 703「四重奏断章」

メンデルスゾーン:弦楽四重奏曲 第1番 変ホ長調 Op.12

(アンコール)
パーシー・グレインジャー:岸辺のモリー
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。