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ブーレーズ ドビュッシー・交響詩「海」 [オーディオ]

ブーレーズの、ドビュッシー・交響詩「海」。

ブーレーズといえば、60年代後半に指揮者としてCBSソニーにメジャーデビューしストラヴィンスキー「春の祭典」での精緻なリズム構成や、ラヴェルやドビュッシーではキレの鋭いアーティキュレーアションと透かし彫りのように細部まで精緻に浮かびあがらせた演奏で時代を画しました。

La Mer Boulez The New Philharmonia merged_1.jpg

私の持っている盤は、(おそらく)再販の国内盤。これがものの見事に《SX68 MARK II》。
 
前の投稿でご紹介したキャッチフレーズには続きがあります。

『なかでも歪みはSX-68カッティング・ヘッドの40~16KHz±0.5dBという広い周波数帯全域にわたり0.03%以下になり、カッティングに起因する歪は事実上追放されました』
 
注目なのは、周波数帯域が40~16KHzとあること。当時のLPの再生帯域上限は16KHzまでと認識されていたこと。もちろんそこでストンとカットされていたわけではないけど、当時のDL-103のデータシートでは文字通り16KHzでストンと落ちていました。放送規格もそうなっていたはずです。

改めていま現在、自分の最新システムでその演奏を聴いてみると、その革新性に再び目が醒める思いがします。「海」といえばドビュッシーのみならずいわゆる「印象派」音楽を代表する傑作であることは間違いありません。けれども、広くゆきわたったある種の思い込みのような受け止めかたがあります。それはこの曲が標題が示す通りの「交響詩」であり印象派の響きの粋をこらした「絵画的」音楽だということ。

ブーレーズの演奏を聴いてみると、説明的な「絵画」というよりビジュアルな「動画」というべきで、海のうねりや千変万化する波の様相を、光や色彩の変化や、泡立ちとかしぶき、水鳥やイルカのような海生動物の躍動など、ある種の触感的な肌理とともに多彩に感じさせてくれる、まさに心に刻まれた《印象》を描いた音楽だということがよく感じ取れるのです。

構成もしっかりしていて、プロローグともいうべき序部と気宇壮大なコーダ、序部における異国情緒の五音音階的な音列が全体的な気分を支配し、第一部の主題が第三部で回帰するなど循環的構造が明白です。それが、広大な大洋の果てしない拡がりと波の生々流転という無限を見事なまでに感得させてくれるのです。

そういうことを明らかにしたブーレーズのドビュッシー演奏は画期的だったのだと思います。それを実現できたのも録音技術やLPのカッティング技術の進歩だったと思うのです。残念ながらオリジナルプレスは持っていないので比較はできていませんが、想像するにこういう演奏においては、SX68の優位性は顕著なのではないでしょうか。

指揮やオーケストラの技術もさらに進歩し、こうした精緻なリズムやアンサンブルを難なく実現できるような時代になりましたが、それでも微妙なずれで響きが薄くなったりかすかに白濁してしまうとかつてのようなのっぺりと茫洋とした「印象」を並べた音楽になってしまったり、逆に粗っぽいディナミークやソロの演技が過剰になればシンドバットの冒険譚のような劇的な音楽になってしまいます。

これをデジタル時代の新盤(CD)と較べてみると、旧盤はさすがに録音に古さを感じさせますが、アナログ特有のコクとしっかりとした隈取りの色合いが鮮やかで、いまだにその魅力を失っていません。新盤は、デジタルらしい高解像度・広帯域ですが、再生システムによってはそれがかえって薄味の印象になってしまい、本来のブーレーズの意図が聴き取りにくくなってしまうので注意が必要かもしれません。
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