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アイドル・クァルテット (タレイア・クァルテット) [コンサート]

若手演奏家を紹介する紀尾井ホール「明日への扉」シリーズ。新進気鋭の演奏家の登竜門というわけですが、登場する時点ですでにそこかしこで活躍し知名度も高い昇竜の勢いの若手ということが多い。ところが今回のタレイア・クァルテットは、久しぶりにちょっと異色の演奏家の登場となりました。

というのも、この若いクァルテット、2014年に芸大在学中に結成。途中でメンバーのひとりが変わったけれど、いまや10周年を迎えようとしている。「明日への扉」デビューのクァルテットには2017年登場のカルテット・アマービレがあるけど、実はアマービレが桐朋学園在学中に結成したのは2015年。いわば後輩に入幕で追い抜かれてしまった学生横綱といったところ。

10年選手なのに、見かけはとてもフレッシュというのが、よくも悪くもこの団体の個性なのだと思います。いってみればアイドルグループ永遠の二列目センター。この日も全員、真紅のドレスの勝負服。プログラムは四重奏曲鉄板の曲ばかり。

前半はベートーヴェンとメンデルスゾーン。とてもよいのだけれども、抜け出るものがない。華とか凄味とか、何かが足りないという感じ。ベートーヴェンは、独特の覇気とか晩年の孤高の領域が垣間見えるゾクッとするようなスリルに欠ける。メンデルスゾーンは、その予定調和の形式美・旋律美が、このクァルテットの性格そのもの。だからかえって自意識とか主張といったものが埋没してしまうような気がします。

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後半、得意の「死と乙女」でようやく火がついた。

久しぶりの2階バルコニー席は、ステージ前縁から数メートルのところで音響を俯瞰するには最上の位置。紀尾井ホールは800席の中ホールで、室内楽にはほぼ理想の音響です。それでいて少し音量的には不満が残ります。以前、彼女たちの演奏を聴いたのは、だいぶ小さなレクチャールームでかぶりつきだったので、彼女たちの丁々発止がよく聞こえました。このぐらいの大きさのホールになると彼女たちには少々荷が重いのかも知れません。

それでも何よりもヴァイオリンの山田香子さんにスイッチが入った。変奏曲楽章も大熱演。それに対抗するはずのチェロの石崎美雨さんがちょっと弱い。音はきれいで滑らかで歌心はあるのだけれど、切り込んでいく気迫が不足するのでどうしても全体に従属することで終わってしまう。音色が軽く薄くて、だから、アンサンブルの厚みを支え切れていない。第二ヴァイオリンの二村裕美さんも相方としては不足はなくそつがない。ヴィオラの渡部咲耶は、明らかにアンサンブルの要として要所要所を締めていて、その刻みはさすがのもの。曲のせいなのかここぞというヴィオラの音色が出てこないのでちょっと不満が残りました。これは、また、ブラームスとかドボルザークとかを聴いてみたいところでした。

気持ちとしては、この「明日への扉」を大きな節目として何か大きく変わっていってほしいというところが本音です。たぶん、今の売れっ子ぶりなら食うには困らないのだと思います。このまま、今の良さを活かしてその延長としての次の十年があってもおかしくない。でも、応援する気持ちとしては、《二列目センター》から脱してもっとずっと上に向けて変質してほしい。楽器も変える必要があるのかもしれません。お金も度胸も必要。

登竜門には年齢制限はないのだと思います。あるのは目の前の飛躍への舞台だけ。それがこの「明日への扉」シリーズの面白さなのです。


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紀尾井 明日への扉37
タレイア・クァルテット(弦楽四重奏)
2023年12月13日(水) 19:00
東京・四ッ谷 紀尾井ホール
(2階BL 18列25番)

山田香子(ヴァイオリン)
二村裕美(ヴァイオリン)
渡部咲耶(ヴィオラ)
石崎美雨(チェロ)

ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第11番ヘ短調 op.95《セリオーソ》
メンデルスゾーン:弦楽四重奏曲第1番変ホ長調 op.12

シューベルト:弦楽四重奏曲第14番ニ短調 D 810《死と乙女》

(アンコール)
シベリウス:アンダンテ・フェスティーヴォ
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