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三浦友理枝 ドビュッシー・ピアノ作品全曲演奏会 第3回 [コンサート]

三浦友理枝さんのドビュッシー・ピアノ作品全曲演奏の第3回。

前回が昨年の1月でした。2年近く間が空いたのは、ホールの天井耐震化工事が入ったためです。コロナ禍などもあってとてもゆっくりとしたペースの全曲演奏。三浦さんは、おかげさまでじっくりとドビュッシーに向き合うことができますと言っています。その言葉がとても真摯に胸を打つ。そんなリサイタルでした。

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演奏の前のトーク。いつものようにとてもシックな色合いのワンピース。花柄が可愛い。今回は、前奏曲全2巻を通しで演奏する。言ってみればドビュッシーのピアノ曲の本丸天守閣。12曲ずつの演奏なので、最初に概括的な解説だけで、曲毎の解説は、手元のプログラムを見てほしいとのこと。

ドビュッシーの前奏曲は、バッハやショパン、ラフマニノフのように12音の長短調を順番に網羅したものではない。いってみれば、散文詩を一冊に綴じた詩集のようなもの。三浦さんは、それを暗譜で弾くのは大変だったという。曲順の前後に脈絡が無いので、次は何だったかしらと不安になるという。

実は、そのことは聴く方も同じ。漫然と聴いていると、いつの間にか自分がどこにいるのかわからなくなってしまいます。睡魔が襲うことも…。このシリーズは、1曲毎に三浦さんのトークが入るのでプログラムはいたって簡素。今回は通しの演奏なので、プログラムには1曲毎に2行だけの説明がついている。見開きの一覧はページもめくる必要もなく静かに鑑賞できて、それを曲毎にちらりと確認できるので集中が途切れません。とても気の利いた配慮です。

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しかも、久々に2階バルコニー席は、ちょうど鍵盤を見下ろすような絶好の位置。三浦さんの鍵盤上の指先を目で追いながら耳で音を聴く。そういう直感のおかげもあってドビュッシーを堪能しました。そして、天井の高いこのホールのバルコニー席の音の良さを、あらためて実感することもできました。

三浦さんのドビュッシーは、ハーモニーもリズムも、とても明解。前奏曲は、標題そのものがとても詩的。パリ万博、第一次世界大戦前夜のベル・エポックの時代背景もあって異国趣味が馥郁と薫るドビュッシーの音楽は、印象派という絵画的なものよりも、絵はがきの文面に詩文を綴ったような文学的な音楽。三浦さんはペダルを重用せずに響きを濁らさず、音色や拍節のモビリティを、穏やかに、しかも、とても艶やかに奏でていく。こういうドビュッシーは、そのピアニズムがとてもわかりやすくて、心地が良い。

三浦さんによれば、しばしば現れる三段譜も二本の腕でどうやって弾くんだと思うけれど、高中低の音域の弾きわけが明解になりかえって弾きやすいとのこと。これは目からウロコ。「沈める寺」は三段譜ではないのですが、これもよく見るととても三段譜的。浮かび上がった大聖堂の梵鐘の響きのような鍵盤最低音側の左手の動きなど鍵盤上の三浦さんの手を見ていると本当に明解です。「霧」での右の黒鍵と左の白鍵の両手の交錯とその白濁したような響きなど全身で感じるような感覚です。

そうした♭や♯だらけの音調と正音とを交錯させる手法はストラヴィンスキーとの交遊から得たそうですが、なるほど「花火」の冒頭は、花火そのものではなくてパリ祭の雑踏の人の頭だったのかと初めて納得しました。以前に聴いたメルニコフの手指の動きのすさまじさはまるで回転花火のようでしたが、三浦さんの演奏を聴くと、ここはなるほど「ペトルーシュカ」の市場の場面と同じでパリ祭の群衆の喧噪なんですね。その目もくらむような速さの手の動きの鮮やかさはメルニコフに負けていませんが、とても流麗。

三浦さんの技巧技術は、よく練られていて合理的で円滑。しっかりと安定しています。だからとても明晰明解な音と響きがします。第Ⅱ巻ではどんどんと前衛の面持ちを色濃くするのですが、そのドビュッシーがとたんにわかりやすくなって、とても楽しかった。ドビュッシーの音楽に向き合い、時間をかけてじっくりと準備してきた成果なんだと思うのです。

だから、次回もとても楽しみ。その予定はまだ未定なのだそうです。




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土曜マチネシリーズ 第4回
三浦友理枝
ドビュッシー・ピアノ作品全曲演奏会 第3回(全4回)

2023年12月16日(土) 17:00


ドビュッシー:
前奏曲集 第Ⅰ巻
1. デルフィの舞姫 - Danseuses de Delphes
2. ヴェール(帆) - Voiles
3. 野を渡る風 - Le vent dans la plaine
4. 夕べの大気に漂う音と香り
   - Les sons et les parfums tournent dans l'air du soir
5. アナカプリの丘 - Les collines d'Anacapri
6. 雪の上の足跡 - Des pas sur la neige
7. 西風の見たもの - Ce qu'a vu le vent d'ouest
8. 亜麻色の髪の乙女 - La fille aux cheveux de lin
9. とだえたセレナード - La serenade interrompue
10. 沈める寺 - La cathedrale engloutie
11. パックの踊り - La danse de Puck
12. ミンストレル - Minstrels


前奏曲集 第Ⅱ巻
1. 霧 - Brouillards
2. 枯葉 - Feuilles mortes
3. ヴィーノの門 - La Puerta del Vino
4. 妖精たちはあでやかな踊り子 - Les Fees sont d'exquises danseuses
5. ヒース - Bruyeres
6. 奇人ラヴィーヌ将軍 - General Lavine - excentrique
7. 月の光が降り注ぐテラス - La terrasse des audiences du clair de lune
8. 水の精 - Ondine
9. ピクウィック殿をたたえて - Hommage a S. Pickwick Esq. P.P.M.P.C.
10. カノープ - Canope
11. 交代する三度 - Les tierces alternees
12. 花火 - Feux d'artifice
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