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ウィーン国立歌劇場「トゥーランドット」 (ウィーン&ブダペスト音楽三昧 その7) [海外音楽旅行]

さて、怒濤の三連チャンの日曜日。

メータ/ウィーン・フィルの大宇宙のようなマーラー「復活」の興奮醒めやらぬまま、私たち夫婦はリングを埋め尽くす市民マラソンの喧噪のなかに放り出されてしまったというお話しの続きです。

その興奮を鎮めるためというのか、あるいはウィーンの世紀末をそのまま堪能するというべきか、いずれにせよ私たちは楽友協会の建物から徒歩圏にある世紀末様式の建物や美術館をしばらく逍遙していました。夜のオペラまではまだまだ時間があったからです。

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楽友協会の建物から、市民マラソンの喧噪を避けるように、地下鉄駅の地下街を通って反対側の通りに出ると、そこには瀟洒なカールスプラッツ旧駅舎が建っています。ここは、オットー・ワーグナー・パヴィリオンと称してその功績を示す展示がされていて内部のアールヌーヴォー様式の美しい意匠を見ることができます。

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そのすぐそばにはウィーン・ミュージアム・カールスプラッツ(旧・ウィーン市歴史博物館)があって、やはり、クリムトやシーレらの絵画を観ることができました。そのなかにシェーンベルクの肖像画を見つけて「ああ、ここにあったのか」と懐かしいものに思いがけなく出会ったような思いがしました。というのも、このリヒャルト・ゲルストルによる肖像画は、ポリーニのピアノ作品集のジャケットになっていたものだったからです。

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もうひとつは、セセッシオン(分離派会館)。

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ここにはクリムトがベートーヴェンの第九をテーマに描いた「ベートーヴェン・フリース」があります。これは壁画なので、ここに来て見る以外には実物に触れる手だてはないのです。

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さて、ホテルに戻ってひと休み。クライマックスは、ウィーン・フィルを聴いてもまだまだ完結していません。夜は、グスターボ・ドゥダメルが指揮する「トゥーランドット」。

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…歌劇場に入ると、早くも何人かの楽員がピット内で調整を始めています。それをのぞいてみてびっくり。そこにはまたまたライナー・キュッヒルさんがコンマス席に座ってヴァイオリンを弾きながらフレーズの確認に余念がない。キュッヒルさんのコンマスは、前夜の「フィデリオ」、午前中の「復活」に続いて三連続。つくづくその精励ぶりに感服してしまいました。

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「トゥーランドット」は、一昨年のプラハ国立劇場以来。あの時は、1階左側ボックス席ということで響きだけでなく視角的にも少し不完全燃焼のところがあったのですが、今回は1階席6列目中央(Parkett Links Reihe6 Platz14&15)と最上の席を確保。演出、舞台意匠、歌手、オーケストラと世界最上の豪華なグランドオペラ鑑賞に恵まれました。

演出と美術のマルコ・アルトゥーロ・マレッリは、スイス・チューリッヒ生まれ。主にドイツ圏で活躍していきたひとで、その演出は決して安易な大スペクタルに陥ることもなく、内面的な彫琢と外面的な絢爛豪華なスケールとが両立したもの。場面の立体的な配置や転換も理に適った雄弁さを備えていました。新体操風のアクロバチックなバレエを多用してスペクタルな場面を盛り上げ、演劇的な動きと音楽のシンクロナイズもリズミカルで見事。音楽をよく知った演出であり、イタリアオペラの歌唱的要素も存分に聴かせてくれます。

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歌手陣は、私にはなじみの薄いひとばかりだったのですが、いずれ劣らぬ名歌唱で聴衆を熱狂させました。まずは、カラフ役のユシフ・エイヴァゾフ。人気絶大のディーヴァ、ネトレプコの旦那さんとしてこの3月に来日しネトレプコ・スペシャル・コンサートで共演し、最後のアンコールで「だれも寝てはならぬ」を熱唱して場内を沸かせたそうですが、本場ウィーンではそれ以上の熱狂的喝采。このアリアは喝采を受けるいとまもなくその次に続くのですが、そんなこともかまわぬ大喝采でした。

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タイトル役のリーズ・リンドストロームはとてもシャープなソプラノで、まさに氷の美女を好演。プッチーニは女の二面性を描くのに巧みですが、リューの自刃を目の当たりにしたあたりから心が氷解していき、最後の最後になって世界の中心で「愛」を叫ぶ劇的な幕切れも見事。

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リュー役は、ヒロインほど派手ではなく楚々とした可愛らしさのある脇役的な美女、純でありながら気丈さを兼ね備えるといった役どころで、こういう役によくはまる名歌手というのがいるものですが、アニタ・ハーティグはまさにそういうソプラノ。

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第二幕で大活躍のピン、ポン、パンの三人は、ミュージカルなみの激しい振付をこなしながらリズミカルで躍動的。トゥーランドット姫による生死をかけた難題の謎解きへと進む劇的な展開を大いに盛り上げていました。オペラ歌手というのは大変なものだと思いました。

けれども、このプッチーニ畢竟の大傑作を大いに盛り上げたのは何よりもピット内のオーケストラだったのでしょう。私たちの席からはピット内のたぎるような熱気がよく伝わってきます。第一幕の終末、カラフが謎解きへの挑戦を高らかに宣するために銅鑼を大きく三回打ち鳴らすまでの強烈なクレッシェンド、第二幕の劇の展開を支える躍動的な強弱やカーニヴァル的な熱狂、第三幕の情熱的な喜怒哀楽など、同じ日に聴いたマーラーの世界とは全く違う燃え上がるようなラテンの世界。気位の高いオーケストラをこれほどまでに奮い立たせたドゥダメルは、その人気ぶりも大いにうなずける久々のカリスマの登場だと痛感させられました。予習にと事前に聴き込んだカラヤン盤に思わず入れ込んでしまった私たち夫婦でしたが、その壮大華麗なグランドオペラがそのまま実物となって眼前に現れた感動は言葉に尽くせないほど。

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カーテンコールで、その若きカリスマが実に控えめに小さく目立たなく振る舞っていたことがとても印象的でした。



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ウィーン国立歌劇場 プッチーニ「トゥーランドット」
2016年5月8日(日) 19:00
ウィーン ウィーン国立歌劇場


Gustavo Dudamel | Dirigent
Marco Arturo Marelli | Regie und Licht
Marco Arturo Marelli | Ausstattung
Dagmar Niefind | Kostume
Aron Kitzig | Video
Mario Ferrara | Buhnenbildassistenz
Katrin Vogg | Kostumassistenz

Lise Lindstrom | Turandot
Heinz Zednik | Altoum
Yusif Eyvazov | Calaf
Anita Hartig | Liu
Dan Paul Dumitrescu | Timur
Paolo Rumetz | Mandarin
Gabriel Bermudez | Ping
Carlos Osuna | Pang
Norbert Ernst | Pong
Won Cheol Song | Prinz von Persien (Gesang)
Werner Eske | Prinz von Persien (Pantomime)
Younghee Ko, Martina Reder | Magde
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