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イタリアのマーラー (ミラノ・スカラ座をしゃぶり尽くす その3) [海外音楽旅行]

ミラノ滞在の3日目となるこの日は、昼食の時間をたっぷりと取ってミラノの食を楽しみました。

実は、それはまた、30年前の家族旅行のセンチメンタルジャーニーも兼ねていました。ミラノには30年前に家族で来たことがあることは『最後の晩餐』鑑賞でも触れましたが、ミラノに到着した30年前のその夜はとてもひどい雨が降っていました。ようやくの思いで到着したホテルのフロントで一番近くで子供もOKというお店を教えてもらいました。お腹を空かした子供に早く食事をさせたい思いと、降りしきる雨の中を遠くまで歩かせるわけにもいかないという思いでした。

教えてもらったそのお店は確かにホテルからすぐのところにあって、見かけはとても小さな間口。入口にいたおばあちゃんはとても気さくで私たちから濡れた傘を受け取りながら、子供たちを見て「オー、バンビーノ!」と満面に笑みを浮かべ、優しく子供たちの頭をなでていろいろ話しかけながらテーブルへと案内してくれました。

てっきり小さな庶民的なレストランと思い込んだ私たちは、店の奥のテーブルへと案内されて、あっと驚いたのです。奥はとても広くて豪華な内装です。料理は本格的で、前菜としてトレイで運ばれてくる海鮮料理やパスタは豪華絢爛で、それを見ながらあれこれ選べるようになっています。子供たちにも声をかけて勧めてくれる店員たちもとても親切。最初は気後れさえしていたのに、だんだんと気持ちがくつろいできて本格的なイタリア料理を満喫したのです。

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その店を再び訪ねてみると、その30年前そのままの店構えで、とてもうれしくなってしまいました。

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イタリアの常識からすれば早い時間でしたので、テーブルは入口近くのひとつめの部屋に案内されました。

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次第に店内も混んできて、思い出の奥の大部屋もほぼ満席になりました。

ワインはちょっと奮発してブルネッロ・ディ・モンタルチーノ。この後、食品店で確認したらほぼ小売値と同じでした。イタリアのレストランはワインにはとても律儀です。このワインがとても美味しかった。

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初めてイタリアに来たときはイタリア人の大食と、メニューの組み立ての大きさに驚きました。当時に比べるとこちらも体重と胃袋の容量は成長しましたが、この日はランチということでアンティパストにミラノ風のリゾット、プリモにはオッソブッコだけ。

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付け合わせで焼き野菜を連れ合いとシェア。

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というわけでミラノの名物料理ばかり。

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連れ合いはミュール貝を頼んでいましたが、そういえば以前に出張でミラノに来たときに大きなバケツでご馳走になったことがあって、これもミラノっ子の好物のひとつなのでしょう。

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大きなソーセージを切り分けるのが面白くてじっと見ていたら、お前も喰うかとの仕草。思わず「シ!」とうなずいてしまいました。

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もちろんドルチェもいただきました。

さて…

この夜は、スカラ座管弦楽団のシンフォニーコンサート。総監督のリッカルド・シャイーが指揮するマーラーの交響曲第3番。

イタリア最高峰の歌劇場スカラ座のオーケストラは、すなわちイタリア最高峰の管弦楽団ということになります。シンフォニーは、古くから行われてきて近年ではこうしてオペラシーズンであっても開演するし、最近の日本ツアーでも必ず一夜はシンフォニーが演じられています。

ライプツィヒやチューリヒなどとの違いは、その会場が歌劇場そのものであること。

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オーケストラピットにまでステージが拡張され、奥には巨大な木製の反射板が取り付けられています。プログラムはマーラーの最長の交響曲である第3番の1曲のみ。巨大な編成のオーケストラがステージにぎっしり並び、奥には合唱の階段席が設けられていて、歌劇場の様相は一変します。アコースティックは、歌劇場なのでさすがに残響時間も短いドライな響きですが、ステージがプロセウムから大きくせり出しているのでピット内からの音響とは違って壮大な広がりがあったことは期待以上のサウンドアコースティックでした。

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第3番は、作曲者によって第一部と第二部というふうに2分されていますが、合唱は始めから入れられていて休みなく一気に演奏されます。

第一楽章は、30分を超える長大なもの。私は、ハイティンク/シカゴ響のライブ盤を愛聴していますが、そこで展開するマーラーの狂気や偏執的な回顧と強迫観念の無秩序とさえ思えるような混乱狂乱ぶりにいつも圧倒されてしまいます。シカゴ響ほどの強烈強大な音量はありませんがスカラ座管も大変な技量の高さです。冒頭の8本のホルンのユニゾンと続くティンパニとグランカッサの打撃は、さすがにハイティンク盤のような音量強調はありませんが音楽的にとても緻密。さらに続いての聴きどころであるグランカッサのロールは、マレットを硬いものに持ち替えているので少し甲高い音でピアニッシモであってもとても明瞭に聞こえます。こういうところがオーディオの虚構と生音との違いなのです。

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それにしても、イタリアでマーラーを聴くことになるとは数年前までは想像したこともありませんでした。

マーラーはイタリアでもかなりの人気のようです。それは、やはり、歌曲好きのイタリア人だからでしょうか。特にミラノは半島地域とは明らかに人種文化が違っていいて、かつてハプスブルク家が支配した大陸部アルプス山脈の南側ふもとの平野部なだと実感します。現に晩年のマーラーが滞在し『大地の歌』を作曲したドロミテのトープラッハは現在のイタリア領になっています。

それでも第一楽章の演奏はしっくりときませんでした。

その演奏には、マーラーの幼児体験への偏執と分裂症気味な自己愛と自己嫌悪、運命に取り憑かれたような被害妄想がどうも希薄なのです。冒頭のホルンの旋律や『夏の行進』にあるはずの抑圧的な軍隊の野卑な横暴さが感じられない。マーラーが多用する旋律を分断していくつかの楽器で受け渡していく技法も浮かび上がって来ない。だからファシズムの恐怖もポピュリズムの怯懦も見えてこない。ただひたすらに分断されたパーツとパーツがそれぞれ勝手に歌っている感じがします。

第一楽章すなわち第一部がが終わって、ソリストのゲルヒルト・ロンベルガーが登場します。休憩らしい長めの間合いが取られたのはここだけ。第二部はほとんど一気にと言ってよいほどに続けて演奏されます。

この第二部で、それまでの不満が一気に反転してしまいます。素晴らしいマーラー。

それはひとつにはソリストのロンベルガーが素晴らしかったから。実にオーソドックスですが声に深みがあってよどみがない。実は、ロンベルガーはハイティンクがバイエルン放送響を指揮したライブ盤で起用されたアルトです。

合唱が、これまた、素晴らしい。天性の無垢な美しさと強い純粋さや健気さがあって、とても明るい色彩と響きがあります。少年合唱隊の「ビムバム」も天真爛漫というわけではないのですが子供の声の持つ浄化作用に心が洗われ躍ります。

そういう歌手や合唱に導かれるというところもあるのでしょうが、オーケストラも実に伸び伸びとした技量や技巧を発揮して華麗なまでの極色彩でよく歌います。第二部にはマーラーのもうひとつの側面である歌唱性とハイテンションな多幸感が漲っている。そういうところにイタリアのマーラーの真骨頂があるように思えてきます。不満に感じた第一部も第二部を聴いてみると地味だけれども郷愁のようなものがあってあれはあれでよかったのだとも思えてきます。食通でもあるイタリア人の宗教観、信仰心はとても現世肯定的であるような気がします。

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終演後の喝采もひときわ盛り上がりました。

前夜の本来のオハコともいうべきヴェルディではずいぶんと冷静な拍手だったのに、マーラーにこれほど共感し興奮するイタリアの聴衆と同席して、これにもまた感激してしまいました。


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スカラ座管弦楽団演奏会
2018年2月23日(金) 20:00
イタリア・ミラノ市 スカラ座

ミラノ・スカラ座管弦楽団・合唱団・児童合唱団
指揮:リッカルド・シャイー
合唱指揮:ブルーノ・カソーニ
ゲルヒルト・ロンベルガー(アルト)








iccardo Chailly

Teatro alla Scala Chorus and Orchestra
Treble Voices Chorus of the Teatro alla Scala Academy
Chorus Master
Bruno Casoni
Soloist
Gerhild Romberger
programmE
Gustav Mahler
Symphony No 3 in D min.
for contralto, women chorus, treble voices chorus and orchestra

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