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「シモン・ボッカネグラ」 (ミラノ・スカラ座をしゃぶり尽くす その2) [海外音楽旅行]

ミラノ・スカラ座をしゃぶり尽くす旅。その初日です。

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実はスカラ座を30年ほど前に訪ねたことがあります。ボックスオフィスで当日券があるかと聞くと「ある」とのひと言に狂喜…ところが「でも、公演が開催されるかどうかわからない」との話しに愕然。演目まではっきりと覚えています。モーツァルトの『魔笛』。指揮者はサバリッシュでした。スカラ座ならイタリアオペラとの気持ちからは多少は期待外れでしたがサバリッシュの『魔笛』ならと思い直す頭に冷や水を浴びせられたようなひと言。理由は、「組合ともめていて、ストライキがあるかもしれない」から。当時のイタリアは、労働争議の真っ盛り。あちらこちらでストが行われていました。

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オペラハウスのツアーに参加してみると、ちゃんとオーケストラがリハーサル中。何でも争いは舞台装置関連の組合だそうで、そのために全体が休演に追い込まれてしまうのです。やはりあえなくキャンセルでした。

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さて、この夜の演目はヴェルディ中期の傑作『シモン・ボッカネグラ』。30年を超える積年のリベンジにはふさわしい演目です。

このオペラは、ヴェルディ中期の作品でヴェネツィアのフェニーチェ劇場で初演されましたが不評に終わります。この作品に愛着を持ち続け改訂の機会を伺っていたヴェルディは、晩年になってようやくそれを果たします。その改訂版の初演がこのスカラ座ということになります。いまはもっぱらその改訂版が上演されています。フェニーチェ版に較べて、もともとの劇性と格調の高さはそのままに、ストーリーが整理され、パオロの悪役ぶりを引き立たせるなどより人間性を鮮明にしたのです。

前回観たのはプラハの国民劇場で、その時はグランドオペラとしてはややこぢんまりとしているかなと思いましたが、さすがにスカラ座は舞台デザインもグランドオペラにふさわしい豪華なもので、安易な簡略化や現代意匠に傾くことなく堂々たる時代意匠でのステージです。しかもスカラ座は、ウィーンやミュンヘンと較べて決して大きい劇場ではないのですが、プロセニウムがとても高いのでスケール感がとても大きく感じます。

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その高さを活かして、適度な抽象化が図られ、少々込み入っているこの歴史劇がわかりやすく感じます。例えば、プロローグでの政敵であり恋人の父親であるフィエスコの館は上手高い階段の上に象徴的に存在していて、その対極の下手に軍船のロープが掛かり、シモンの立場を鮮明に現しています。

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最終幕、シモンの死と和解の場面で、ステージ頭上に掲げられていたカスパー・ダーヴィト・フリードリヒの絵『氷の海』が反転していき裏側に巨大な鏡となって、ステージ後方からオーケストラピットを俯瞰する虚像が投射され、それが何を表徴するのかは謎めいていますが、とても印象的でした。

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パオロ役のダリボール・イェニスは、その明るめの豊かな声量存在感十分。日本とは東北大震災当時予定されていた新国立デビューがキャンセルとなった因縁があるがヴェルディオペラには欠かせない歌手で、単なる悪人というのではなく、奸計に富んだ策士でありながらアメーリヤに横恋慕するなど常にオペラの中心で存在感を示していました。

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アメーリア役のクラッシミラ・ストヤノヴァは、華のある娘役としては少々塔が立っている感じがしないわけではないが、その気高い気品と気持ちの強さが滲み出てくるところは、さすがの貫禄。

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アドルノ役のファビオ・サルトリは、恋人役にぴったりの明るい情熱的なテノール。それでも格調の高さが保たれているのがさすがです。

フィエスコ役のドミトリー・ベロセルスキーも貫禄十分。敵役だが悪役ではないという難しい役どころを堅実にこなしていて、このシモンの誠実な献身と若いにかけた自己犠牲の対極にあってドラマ全体をしっかりと支えていました。

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タイトルロールのレオ・ヌッチは、1942年生まれ。1年年長のプラシッド・ドミンゴに次いで恐らく現役のバリトンとしては最年長の大老優ではないでしょうか。さすがに声量に衰えがあるのでしょうか、プロローグではステージの奥からでは声が届いてきにくいところがありましたが、その本領は熟練の演技にあって最終幕の和解の場面は感動的でした。このオペラが、毒殺されるシモンの悲劇そのものが登場人物全ての和解と平和をもたらすという喜劇の二面性を持つことに初めて気がついたのでした。

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それにしても、最大の立役者は指揮のチョン・ミュンフンだという気がします。実際、スカラ座の聴衆も、重鎮のレオ・ヌッチ以上の盛大な拍手をこの韓国人指揮者に送り劇場全体が湧き上がるような熱気に包まれました。ヴェルディのオーケストレーションの魅力をダイナミックに引き出し、しかも、ステージ上の劇的な歌唱が明快に浮かび上がってくる。ドラマの流れや起伏がとても豊かで円滑でした。私自身も、もともとは、スカラ座のミュンフンが聴きたいという一心でここまで来たのです。その期待は大いに満たされた思いがして、最大限の拍手を送りました。

こうしてミラノ・スカラ座の第一夜は、イタリア歌劇の神髄、ヴェルディで大いに盛り上がります。そして第二夜では、スカラ座のもうひとつの顔を目の当たりすることになります。

(続く)




ヴェルディ作曲「シモン・ボッカネグラ」
2018年2月22日 20:00
イタリア・ミラノ市 スカラ座
(1階左土間席 I列14番)

ミラノ・スカラ座管弦楽団・合唱団
指揮:チョン・ミョンフン

シモン・ボッカネグラ: レオ・ヌッチ
ヤコポ・フェイスコ: ドミトリー・ベロセルスキー
アメーリア: クラッシミラ・ストヤノヴァ
ガブリエレ: ファビオ・サルトリ
パオロ: ダリボール・イェニス
ピエトロ: エルネスト・パナリエッロ



Simon Boccanegra
Giuseppe Verdi
Teatro alla Scala Chorus and Orchestra
Teatro alla Scala and Staatsoper Unter den Linden, Berlin Production

Conductor Myung-Whun Chung
Staging Federico Tiezzi
Sets Pier Paolo Bisleri
Costumes Giovanna Buzzi
Lights Marco Filibeck

CAST
Simone Leo Nucci
Amelia Krassimira Stoyanova
Jacopo Fiesco Dmitri Belosselskiy
Gabriele Adorno Fabio Sartori
Paolo Albiani Dalibor Jenis

Pietro Ernesto Panariello

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