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クレモナのヴァイオリン (ミラノ・スカラ座をしゃぶり尽くす その4) [海外音楽旅行]

ミラノ滞在4日目は、クレモナまで日帰り旅行をしてきました。

もちろんクレモナと言えばヴァイオリンの街。豊かな中世の面影をたたえた美しい街でもあります。

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ミラノの南東、同じロンバルディア州にあって、ボローニャ行きの列車に乗って1時間ほどのところ。幸いこの日は、厳しい寒波が襲っていたこの時期にあって一番穏やかな天候で、午後には晴れ間の拡がる絶好のお散歩日和。古い中世の街並みとヴァイオリンを訪ねての散策は、ロマンチックというのか、むしろおとぎ話のなかに遊ぶような気分。

ロンバルディア州は、アルプスを源流としイタリア最長の川であるポー川の流域に肥沃な平野部が広がり農業が盛んで、なおかつ古代中世以来、交通の要衝を占めていたことから商工業も発達していてイタリアのGDPの2割以上をたたき出しています。車窓を眺めると、広い農耕地や牧場もあり工場もありということで本当にその豊かさを実感します。

クレモナは小さな街ですが、中世以来、軍事的要所として発展し中世の面影を色濃く遺す美しい街で、ミラノと同じヴィスコンティ家の支配下にあり音楽の盛んな街として繁栄しました。アマティ家に始まり、グァルネリ一族、そしてアントニオ・ストラディバリと18世紀にかけてヴァイオリン製作は隆盛を誇りますが、その後は一時衰退してしまいます。その伝統を再興したのは独裁者ムッソリーニの支援によるものだということです。

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駅から真っ直ぐに向かったのは、2013年にオープンしたというヴァイオリン博物館。

建物はモダンで、内装や展示もとても現代的。所蔵楽器も弦楽器に限定しているせいもありますが、ミラノのスフォルツァ城内の楽器博物館と較べてもさほど数が多いわけではありません。けれども、何と言ってもストラディバリウスやアマティ、アントーニオ・グァルネリ(グァルネリ・デル・ジュス)などの名器がずらりと展示されているのはまさに壮観です。展示楽器は、各地の所蔵楽器と交流交換して適宜変わるようになっているとのこと。もちろん現役の楽器も展示品には含まれているわけです。

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クレモナは、ヴァイオリンに限らず、ギター製作でも有名な産地で、ストラディバリの製作した貴重なギターも展示されています。こういう中央アジア発祥あるいは中東で発達した弦楽器がルネサンス期に一気にこの地で花開いたのは、やはり、アルプスの豊富な森林資源が背景にあったようです。響きに直接影響する表板はスプルース(マツ科の針葉樹)、側板など強度部材はカエデが使われ、指板にはインドなどからの交易品である黒檀が使われています。単に家具製作などの木工工芸というだけではなく、アルプスと交易盛んな地中海という組み合わせによる原料や経済基盤にも恵まれていたというわけです。

こうしたヴィンテージ楽器だけではなく、モダン楽器もずらりと展示されています。

それは、ヴァイオリン製作の世界最高峰を競うクレモナ国際ヴァイオリン製作コンクールが76年以来、3年おきに開催されていて、そのコンクールで最高の金メダルを獲得した作品がすべて展示されているからなのです。

博物館のガイドさんに日本人の女性の方がいらして、日本語で丁寧親切に解説していただきました。そのガイドさんにお伺いすると、いままで日本人の金メダリストはたったお一人しかいらっしゃらないのだそうです。そのヴァイオリンの前に案内していただくと銘板には確かに“ Sonoda Nobuhiro”とあります。その方は、現在、日本弦楽器製作協会会長の園田信博氏で、無量塔藏六氏に師事、その後ドイツに渡りマイスター資格を得て1982年の第3回コンクールで見事優勝されたそうです。

街のそこかしこにヴァイオリン製作工房が軒を並べています。

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クレモナは、もちろん、ヴァイオリンだけではありません。

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街の中央には、壮大華麗なドゥオーモがあって、ちょっと度肝を抜かれました。

市内の博物館としては、アラ・ポンツォーネ市立博物館が本来の博物館。ここの楽器展示もなかなかの充実ぶりです。

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クレモナ派の絵画のなかに、ここにもカラヴァッジョがあります。

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もうひとつの目玉はマルチンボルトの『野菜売り』。

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美術鑑賞の後は、ゆっくりと昼食を楽しみました。

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美術館からほど近い路地を入ったところに小さなレストランらしきお店があるので、店先で中の様子をうかがっていると、通りかかった女性が何やらイタリア語で「このお店は最高よ。オススメだわ。」というようなことを言い放って笑いながら通り過ぎていきました。その明るい声に背中を押されて中に入ってみることにしました。

オーナーシェフのおじさんも、その娘さんらしい若い女性もちょっと戸惑ったような表情を見せます。話しかけてみると全く英語が通じません。歓迎はしてくれているようで、とにかくテーブルに案内されてメニューを渡されますが、私にはチンプンカンプン。英語で質問してみても「あ~う~」状態です。

見るに見かねたらしく、隣のテーブルの4人連れのひとりである若い青年が話しかけてきて、私たちのあいだに入って通訳してくれて助かりました。

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お店のメニューはまったくのローカル料理。ミラノでの食事はとても美味しいのですが、ピザにスパゲッティ、リゾット、カツレツ、オッソブッコと、メニュー自体はありきたりのものばかりで、今や東京でも食べられるものばかり。正直言って、ここでも軽くスパゲッティでもと思っていたのですが、そういうものは全くメニューに載っていません。

注文してみてもどんなものが出て来るのか皆目見当がつかなかったのですが、どうやら地元料理で塩漬けした内臓肉を茹でたもの。タンなどの三種盛りで、素朴な料理ですがとても美味しかった。軽くと言いながら、結局、またドルチェを頼んでしまいました。

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日帰りの楽しいエクスカーションでした。中世と古楽器のおとぎの世界を満喫しました。

…さて、実はこの日のスカラ座もやはり神話や妖精たちのフェアリーテールの世界だったのです。

(続く)

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