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青木尚佳&エマヌエーレ・セグレ ヴァイオリン&ギター デュオ・リサイタル [コンサート]

ヴァイオリンとギターのデュオ・リサイタルというのは初めて。

でも、その組み合わせは決して奇異なものではない。ヴァイオリン製作者は、しばしばギターの製作も手がけ、あのストラディヴァリウスにもその作品が現存する。あるいは、悪魔に魂を売り渡したヴァイオリニストとまで言われたパガニーニは、実は、第二の楽器としてギターも愛用していたという。

この日は、そのパガニーニの“チェントーネ・ディ・ソナタ”から始まりました。

“チェントーネ”とは「寄せ集め」というような意味だそうで、つまりはソナタ集とでもいうことでしょうか。純然たるヴァイオリンとギターのための曲で、パガニーニがギターの弾き手でもあることを誇示したかったとも言われているそうです。

最初のチェントーネ・ディ・ソナタの第一番は、どちらかと言えばヴァイオリンが主体でギターは伴奏という感じですが、二曲目に演奏された“ロマンス”は、ギターが主役でヴァイオリンは、伴奏として和声進行を支えます。

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ギターのセグレさんは、まったくSRを使用せず完全なアコースティック演奏。もちろん楽器としての音量はモダン・ヴァイオリンが圧倒的に大きく、最初はそのバランスにはらはらしながら聴いていました。ところが、二人の演奏はその危ういバランスの中で実に心地よいデュエットを繰り広げます。ヴァイオリンは決して遠慮せずほんとうに美しい音色と響き、多彩な色彩と触感で魅了し、ギターは決して音量を頑張らずに淡々と自然体で、その繊細で微妙な色彩変化の綾を紡いでいきます。

合わせて三曲が演奏されましたが、あの超絶技巧の“奇想曲”や協奏曲から浮かび上がるパガニーニとは違ってまるでシューベルトかのような親密な歌心に満ちた穏やかで暖かなロマンチシズムに包まれた曲です。

続いては、そのシューベルトのソナチネ。実際にシューベルトはパガニーニと同時代に生き、その演奏に心酔していたと言われ家財道具を売ってまでしてチケットを買い求め、その演奏を聴いて「天使の声を聞いた」と言ったと伝えられています。その超絶技巧ではなく、ロマンチックなメロディーを讃えるというのはいかにもシューベルトらしい逸話ですが、こうやって聴いていくと、この二人には共通の美点があったのだということに気づかされます。

前半最後の曲は、クラシック・ギターのヴィルトゥオーゾといわれるマウロ・ジュリアーニの曲。これも純然たるヴァイオリンとギターのために作曲された作品。

ここで椅子に座っていた青木さんが立って演奏するスタイルに変わります。ヴァイオリンは歌い手。ギターはその歌にそっと寄り添いながら、驚くほど多彩で繊細な技巧の限りを尽くしして色香を添えていく。会場は、いつの間にか極限のような静粛さの中で息をひそめて聞き耳をたてています。フィリアホールは会場雑音が目立たず、いつでも暖かみのある空気感があるのですが、それだけにこの日の静けさには気がつきにくく、後ろの席から誰かのお腹が空腹でごにょごにょと鳴る音が聞こえてきてびっくりしたほど。

後半は、スペインのエキゾチシズム一色。

青木さんは、前半は濃青一色のドレスでしたが、後半は深紅色の花柄のアラベスクに帯模様の輪郭の黒が凛としたドレスに衣装換え。情熱的な衣装でいかにもスペインの空気を運んできてとてもスタイリッシュ。

ファリャの“民謡組曲”は、もともと声楽曲だそうですが、やはりヴァイオリンが時に奔放に、あるいは、秘め事を告白するかのように歌い、ギターがそれに合わせます。

アルベニスでは、セグレさんのソロを披露。

“アストゥリアス”は、アリシア・デ・ラローチャのLPで親しんできた曲。2枚組LPの4面の2トラック目“スペインの歌”の前奏曲。もともとはギター奏法をピアノ技巧に置き換えたもので、確かセゴヴィアがギター編曲していまやギターの方が有名になった。そのジプシー風の扇情的なリズムとコード展開にゾクゾクするような興奮で魅了されてしまいました。

最後はサラサーテ。

おなじみの“ツィゴイネルワイゼン”ですが、伴奏がギターだけにヴァイオリンの外見的な技巧よりも、繊細極まりない音色や質感の変容、細かいフレージングの揺らぎがはっきりと浮かび上がってきます。さりげなく付けた小さめの弱音器は単に音を小さくするためではなく、渺々漠々とした情感の漂泊の音色にするため。そういう楽器の多様な色彩と演奏者の歌の息づかいとが一体となって繰り広げる色彩の華やかな舞踏に酔いしれました。

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まったくこの青木尚佳という若いヴァイオリニストの持つ、音色の滑らかで美しい伸びやかさ、色彩と触感の豊富さには凄味さえ感じました。大変な才能です。久々にヴァイオリンという楽器のほんとうの魅力に陶然とさせられ、花畑のただなかに立つような多幸感に包まれてしまう思いがしました。




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土曜ソワレシリーズ《女神との出逢い》第276回
青木尚佳&エマヌエーレ・セグレ ヴァイオリン&ギター デュオ・リサイタル
2018年10月13日(土) 17:00
横浜・青葉台 青葉区民センターフィリアホール
(1階 4列13番)


青木尚佳(ヴァイオリン)
エマヌエーレ・セグレ(ギター)

パガニーニ:チェントーネ・ディ・ソナタ 第1番 M.S.112
      大ソナタ M.S.3より 第2楽章 ロマンス
      チェントーネ・ディ・ソナタ 第4番 M.S.112
シューベルト:ソナチネ D384
ジュリアーニ:グラン・ホット・ポプリ op.126
 
ファリャ:スペイン民謡組曲
アルベニス:マリョルカ島 op.202 / アストゥリアス op.47(ギター独奏)
サラサーテ:アンダルシアのロマンス op.22 No.1
      ツィゴイネルワイゼン op.20

(アンコール)
クライスラー:愛の悲しみ
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