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「100% ヴィオラの日」 (清水和音の名曲ラウンジ) [コンサート]

ヴィオラのファン、あるいはヴィオリストのファンにとってはこんなうれしい日はありません。

「100% ヴィオラの日」!

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佐々木亮さんに言わせると、ヴィオリストというのは謙譲の美徳なんだそうです。(ヴァイオリニストのように?)一番を争わない。今日の第1曲も、みんながファーストを譲り合い、佐々木さんが渋々引き受けたのだそうです(笑)。

恒例の清水和音さんからの質問タイムは、「どうしてヴィオラを選んだのか?そのきっかけは?」というもの。

佐々木さんは、アメリカに留学していて、いきなりある日、先生から「ヴィオラの仕事に行ってこい」とムチャ振りされて、練習なしのぶっつけ本番での演奏。何しろハ音記号も初めてだったそうです。周りとは違う音を弾いて迷惑だったかもしれないけど(ホントかいな?)、ご本人はすっかり気に入ってしまったそうです(爆笑)。

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まあ、こういう質問をヴィオラ奏者にぶつけると、たいがいは自虐ネタが返ってきます。以下はそういうお笑いの連続。

鈴木康浩さんは、高校生の頃から室内楽をやっていて、ヴィオラを割り付けられて、それ以来、本科はヴァイオリンなのに合奏ではヴィオラ。なぜかといえば、ヴィオラは簡単だし、音程や小節がずれても誰も気がつかないので楽だから(爆笑)。でも、楽器が大きいのでけっこう大変。それで楽譜は簡単なので釣り合いがとれるのだとか(再笑)。

中 恵菜さんも事情は同じ。ヴィオラをやれと言われて、イヤだったけど(爆笑)やってみてはまった。もともと人と合わせる室内楽が好きだったので性に合ったのだそうです。清水さんが、「クァルテットは仲が悪い。ヴィオラは人格者で、いつも仲介役」と水を向けると、「そうです。いつも第1ヴァイオリンとチェロが衝突する。第2ヴァイオリンとヴィオラはじっと黙って聞いている。」(爆笑)。

そういうヴィオラですが、今日はそれぞれソロも受け持ちます。こうしてヴィオラだけのアンサンブルやソロを聴くと、皆さんの個性も浮かび上がり、こんなに皆さん豊かで多様な感性と表情をお持ちなのだと、ますますヴィオラの魅力に心が沸き立ちます。

佐々木さんは、その高域の美しさに驚嘆。ちょっとヴィオラ離れした高音の魅力。無理していきんで高音を出している感じが皆無。しかもヴァイオリンと違ってとても柔らか。さすが、皆さんにファーストを譲られてしまうわけだと納得。

中さんの音色にははっとさせらるほどに蠱惑的な色艶があります。もちろん演奏技術のなせる技ですが、とてもよい楽器をお持ちです。クレジットによればモンターニャ。あの堤剛先生のチェロと同じ。こんなことは、カルテット・アマービレで聴いていた時には気づかなかったことです。

鈴木さんはとても朗らか。自虐ネタでも絶好調でしたが、こういうお人柄は、やっぱりヴィオリストの鏡。お言葉に反して、リズムや音程が実に安定している。一歩下がっての内声の渋い音色、ウラ拍の魅力は、ワルツのン・チャ・チャや、4拍の後の3つ拍から次の頭につなげるところなど、ヴィオラの魅力満開。まさに、ミスター・ヴィオラはこの人。

曲目も初めて聴くものがほとんど。

ベートーヴェンは、お得意のぶつかり合う弁証法は影を潜めて、とても調和的で輪廻回生的。それもヴィオラ3本だけのアンサンブルなればこそ。

ショスタコーヴィチは、親しみやすいメロディ満載なのは映画音楽が元となっているせいだと思うのですが、それがヴィオラのデュオだととても平明で親密です。

エネスコは、彼方を憧憬するかのような達観があって、しかもとても堅牢な覚醒にあふれている。ヴァイオリンの名手も解脱するとヴィオラになっちゃうということでしょうか。これはさすがミスター・ヴィオラの鈴木さんならではの境地。

印象が強かったのがヴュータンの二曲。そのどちらも、これまた数少ないヴィオラがオリジナルの技巧的小品。中さんの蠱惑、佐々木さんの美音がそれぞれに活かされています。まるでお二人に献上されたかのようにぴったりで、本当に魅了されました。

たった1時間少々という短さが信じられないくらいに豊かで充実した時間に感じられました。





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芸劇ブランチコンサート
清水和音の名曲ラウンジ
第47回「100% ヴィオラの日」
2024年4月247日(水) 11:00~
東京・池袋 東京芸術劇場コンサートホール
(1階K列21番)

ベートーヴェン:3つのヴィオラのためのトリオ op.87
(原曲:2つのオーボエとイングリッシュホルンのためのトリオ op.87 )
佐々木亮(Va)、鈴木康浩(Va)、中 恵菜(Va)

ショスタコーヴィチ:2つのヴィオラとピアノのための5つの小品より
中 恵菜(Va)、佐々木亮(Va)、清水和音(Pf)

エネスコ:演奏会用小品
鈴木康浩(Va)、清水和音(Pf)

ヴュータン:無伴奏ヴィオラのためのカプリッチョ
中 恵菜(Va)

ヴュータン:エレジー op.30
佐々木亮(Va)、清水和音(Pf)

クライスラー:愛の喜び (2つのヴィオラとピアノ版)
佐々木亮(Va)、鈴木康浩(Va)、清水和音(Pf)

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