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響きと色彩の重ね塗り (クァルテット・インテグラ) [コンサート]

サルビアホールで聴く四重奏は至高の世界。

今回は、サルビアホールのクァルテット・シリーズ二度目の体験となりますが、心の底からそう思いました。無二の陶酔感があります。

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クァルテット・インテグラは、やはり若いアンサンブルですが、日本の弦楽四重奏団の花盛りといった層の厚みを感じさせてくれます。昨年秋には、バルトーク国際コンクール弦楽四重奏部門で満場一致の圧倒的な第1位を獲得しています。2015年に桐朋の在校生で結成、サントリーホール室内楽アカデミーフェローを経て、いきなり飛び出してきた超新星という感じがします。

1曲目のブラームスが、見事なまでの音の重ね塗り。

正確なアンサンブルはもうそれだけで見事なのですが、誰かがリードしているというわけではなく、各自が自分の持ち味で実に自由で奔放に振る舞っている。

四人が最初にステージに登場したときに、「お?」と思ったのが、両翼対向型の配置。ヴァイオリンが左右に位置するこの配置は今でこそオーケストラでは珍しくありませんが、弦楽四重奏で目の当たりにするのは初めて。

そのことで一気に響きが大きく拡がり、サルビアホールの音響もあいまって響きに包み込まれるような感覚が快感。このホールの響きはとても豊かで立体的な深みがありますが、決して残響時間は長くないので音色の色彩の重なりが鮮やかで多彩。

対向型配置のおかげで、アンサンブル面でも自由度が高まり、特に第2ヴァイオリンの菊野凛太郎が自在に立ち回り、ブラームスの音楽の情感のほとばしりがとても劇的になります。そのおかげで、ヴィオラやチェロの内声の自由度も上がり、もっともっと豊かな歌になって全体の響きの厚みと色彩のグラデーションを立体的に彩っていく。連作となった第1番に較べて、柔和でくつろいだ表情とも言われますが、どうしてどうして感情の起伏、天を衝くような高揚感にしびれました。

この日のプログラム構成と演奏の意図を解き明かすヒントのように思えたのが、武満徹の「ア・ウェイ・アローン」でした。

ブラームスやシューベルトのような「洋画」と違って、こちらはまるで「墨絵」。単色なのに、その濃淡、筆致の運びで、「流水」の感覚を喚起していくような音作りを感じます。だからこそよけいに「重なり」というものが強く意識される。単色だけれども、音程の線幅や曲直濃淡だけでなく、運弓から来る触感の違い、運動感覚、透明度の違いによる遠近感などを見事に重ねていく。精密なハーモニーが和紙のような「下地」を作る場面もあるし、筆先や刷毛が作るような繊細さも感じさせ、あるいは時にグリッサンドの技法を用いて聴き手の運動感覚を呼び覚ますのです。

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そういう四重奏の重ね塗り的技法の原点を見事なまでに知らしめてくれたのが、最後のシューベルト。

心が震えるほど繊細な微細な動きや躍動的な音高の飛躍、天上に駆け上るような伸びやかな高域、ピチカートなどあらゆる音の感覚が交錯して幻想的で痛ましいまでの情感の起伏を描いていて、40分間があっという間に過ぎてしまう。シューベルトが「重ね塗り」ということに、驚くほど大胆に挑んでいたということに驚きます。

この曲では、三浦響果の倍音豊かな高域の魅力が炸裂。なるほど彼女が第1ヴァイオリンを受け持つ理由はこうことだったのかと納得します。この曲のかしこで炸裂する、極上の陶然とするような高域の快感と魅力でわくわくしてしまいます。菊地杏里のチェロがこれまたハンサムなテノールでよく歌うし、山本一輝のヴィオラが自在に立ち回り、ヴァイオリンの二人が丁々発止と繰り広げる重ね塗りに色と深みを添え、あるいは時に割って入る。

このシューベルトは、まさにロマン派を飛び越えて二十世紀音楽に達していた――そう思わせるほどの濃厚濃密かつ痛烈な甘美な色彩豊かな音楽世界をこの四重奏団が満喫させてくれました。

サルビアホールで聴くクァルテットに当分は病みつきになりそうです。

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サルビアホール クァルテット・シリーズ 138
2022年4月27日(水) 19:00~
横浜市鶴見 サルビアホール
(C列10番)

クァルテット・インテグラ
三浦 響果 菊野 凛太郎  (Vn)
山本 一輝 (Va) 築地 杏里 (Vc)

ブラームス:弦楽四重奏曲 第2番 Op.51-2
武満徹:ア・ウェイ・アローン

シューベルト:弦楽四重奏曲 第15番 D.887
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