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「藩邸差配役日日控」(砂原 浩太朗 著)読了 [読書]

連作ものの形を取っていて1章ごとに話しは完結するのですが、全体としては一貫したストーリーがあるので、1章の区切りにほどよい余韻があって、また、次の章が読みたくなる…だから一気読み。楽しかった。

主人公の里村五郎兵衛は、神宮寺藩江戸藩邸差配役を務めている。「なんでも屋」と陰口を言われ、本人も自嘲気味にそれを承知している。藩邸内の雑事や揉め事の対応に振り回される毎日。

サラリーマン的には「総務課」「庶務課」といったところでしょうか。会社の組織規程なんかには、その管掌業務は「その他、他の部署の職掌に属さざること」なんて書いてあったりする。だから訳のわからない仕事を押しつけられやすい。いかにも雑務屋だけれど、組織上は筆頭部署だったりして偉かったりする。経営中枢に最も近く、直接、役員とか社長とかに対面することも多い。

そのちょっと滑稽で皮肉な立場をうまく使って、ユーモラスな場面や人物描写と、時代劇お定まりの派閥対立とか世継ぎをめぐるお家騒動というシリアスなストーリーを、軽重のリズムよく描いていく。読みやすくしかも《侍もの》としての格調もあって、その筆致は絶妙。

主人公の五郎兵衛の飄々としていて動じぬ風格もよいけれど、部下の頭の硬いベテランと軟弱な若侍のやり取りも軽妙で、家にしきりに出入りする亡妻の妹、その叔母を慕う性格の対照的な二人の娘という女性キャラクターもとても魅力的。

最後の最後にどんでん返しを用意しているところも、さすが数々の章を受賞した手練れの時代劇小説作家。でも、このどんでん返しはちょっとやり過ぎかも?

読者としては、シリーズものとして魅力的脇役陣が活躍する続編を期待したいところですが、このどんでん返しのせいでそれが難しくなったかな…?



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藩邸差配役日日控
砂原 浩太朗 (著)
文藝春秋社
2023年4月30日初刊
2023年7月20日第三刷

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