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バロック・オペラの世界 (紀尾井ホール室内管・定期演奏会) [コンサート]

ここのところ紀尾井ホール室内管の新機軸が続きます。今回は、コントラルトのガルーを迎えてのバロック・オペラの世界。

実は、前身の紀尾井シンフォニエッタ時代にペルゴレージの歌劇「オリンピーアデ」をやったことがあります。紀尾井ホール開館20周年記念の特別企画でした。演奏会形式と本格的なオペラとの中間ともいうべき簡素なものでしたが、前席の何列かを取り払ってオーケストラピットとし、傾斜舞台を載せたステージ上で歌うというもの。

あの時は、リーダーに石田泰尚を迎えての特別編成のオーケストラでしたから今回のメンバーにとっては今回が初めてのバロック・オペラでしょう。それがまたとてもフレッシュな演奏となりました。とにかく紀尾井ホール室内管の多彩な様式対応力に舌を巻く思い。そのことを象徴するのが、ソロのオブリガートの妙技を披露したコンミスの玉井菜採、ファゴットの水谷総のお二人。

前半はヘンデル。

ちょっと出だしはつまづきました。出だしのアインザッツが乱れて足並みがややもつれました。おそらくチェンバロを弾きながらのダントーネの指揮にまだ不慣れなところが残っていたのでしょう。オーケストラだけの序曲といくつかの舞曲が終わるとコントラルトのガルーが登場。

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そのガルーの声がこれまた不調。

「コントラルト」というのは女性の低い声のこと。アルトは、イタリア語ではむしろ高い音域を指すので、ここではあえてそう名乗っているのでしょう。ナタリー・シュトゥッツマンのように驚くほどの低域が出る歌手もいますが、ここではかつてカストラートが歌い演じた役を女性が歌うという意味合いだと思います。

とにかくそういうバロック唱法で、しかも、低いのでなかなか声量が出ない。不調というより暖機運転不足なのでしょうか。カストラートの妙技というべきコロラトゥーラは、細かい音符が実に正確で見事――なのに、よく聞こえない。いわゆる体調不良というのではなくて、調子が上がらないということでしょう。だんだんとそれが上がってきました。

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前半の掉尾は、ダントーネ自身のソロによるピアノ協奏曲。

原曲はニコラ・ポルポラのチェロ協奏曲なのだそうです。ポルポラは、ナポリのオペラ界の掉尾を飾った作曲家であり、ハイドンの恩師でありカストラートのファリネッリを育てた声楽教師でもあった人。原曲の楽譜は、大英図書館に所蔵されていたもの。編曲は指揮者クラウディオ・アッバードの追悼公演のためにされたものだそうです。

現代ピアノのソロに置き換えるということで、ハイドンが「作曲の真の原理」とまで讃えたポルポラへの見事なまでなオマージュを感じます。それは同時に、イタリア・バロック・オペラの神髄が、現代のニノ・ロータなどの大作曲家の根底にあるものとして継承されていると感じさせてくれる。それが現代ピアノの絶妙な効果として感じるのです。

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後半は、霧が晴れたように絶好調のガルーの情熱的で華麗なコントラルトの世界。

ヴィヴァルディといえばヴァイオリンを初め数々のバロック・コンチェルトで親しまれる器楽の大家ですが、実は、オペラの世界でも大活躍。そういうことを肌身で知ることができる貴重な機会ともなりました。オーケストラのそこかしこにヴィヴァルディらしさを感じるのも楽しく、それを背景に一段とイタリア的な旋律美と軽やかで華麗なコロラトゥーラの花が咲き乱れる。

最後に、そうしたバロック・オペラの過剰装飾がふと冷静さを取り戻し、オペラの演劇性と情感表現に復帰するグルックの甘い詠唱。そして、ハイドンで結ぶという顛末。何とも小憎いダントーネのたくらみでした。

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鳴り止まない拍手に満面の笑みを湛えて、ガルーがふたつもアンコール。どうやら、前半の不調を誰よりもわかっていたのでしょう。二曲ともプログラム劈頭のヘンデルでした。楽団員にとってはこれもハプニング。指揮者のダントーネが曲をチェンバロで弾いて見せたりと楽譜をパラパラとめくる音がさざめき、ガルーがダントーネに笑って総譜を渡すと会場もどっと湧きます。

最後の最後の曲は、《復讐したいのです》。ガルーのプロ根性とそのウィットに、これまた舌を巻く思いでした。






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紀尾井ホール室内管弦楽団
第137定期演奏会
2023年11月17日(金)19:00
東京・四ッ谷 紀尾井ホール
(2階C席3列13番)

指揮:オッターヴィオ・ダントーネ

コントラルト 独唱:デルフィーヌ・ガルー

紀尾井ホール室内管弦楽団
コンサートマスター:玉井 菜採

ヘンデル:歌劇《アルチーナ》HWV34~序曲、ガヴォット、サラバンド、ガヴォット、アリア〈復讐してやりたい〉
ヘンデル:歌劇《ジューリオ・チェーザレ》HWV17~アリア〈花咲く心地よい草原で〉
ヘンデル:歌劇《リナルド》HWV7~アリア〈風よ、暴風よ、貸したまえ〉
ポルポラ/ダントーネ編:ピアノ協奏曲ト長調 (原曲:チェロ協奏曲)[アジア初演]

ヴィヴァルディ:歌劇《テンペのドリッラ》RV709~シンフォニア
ヴィヴァルディ:歌劇《救われたアンドロメダ》~アリア〈太陽はしばしば〉
ヴィヴァルディ:歌劇《狂えるオルランド》RV728~アリア〈真っ暗な深淵の世界に〉
グルック:歌劇《パリーデとエレーナ》Wq.39~アリア〈甘い恋の美しき面影が〉
ハイドン:交響曲第81番ト長調 Hob.I:81

(アンコール)
ヘンデル:歌劇《リナルド》HWV7よりアリア〈風よ、暴風よ、貸したまえ〉、 ヘンデル: 歌劇《アルチーナ》HWV34より アリア〈復讐してやりたい〉

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